第9話 眼
第9話
『眼』
いつもの日常。
いつもの場所、いつもの時間。
俺はいた。
「………」
俺はいつものように、橋の手すりにもたれる。
また、今日も・・・か。
「……ふぅ」
一つため息をつく。
いつから繰り返しているのだろう。
この時間を・・・
「こんにちはっ」
元気な声がする。
言うまでもない。
声の主はあいつだ。
「………」
「返事は?」
「ああ、こんにちは」
「うんっ、よろしい」
嬉しそうな顔をする少女。
今日はいつにもまして嬉しそうだ。
「黄昏てるねぇ〜、若者よ」
「お前の方が若いだろう」
「あはっ、そうだね」
「………」
変わってきたな。
少しずつだけど、変わり始めている気がする。
日常が・・・
「ありがとね」
「…?」
「ハンカチ」
「…ああ」
「えへっ」
少女は照れくさそうに笑った。
「………」
「ねぇ」
「…ん?」
「きみって、どうして暗いの?」
「………」
暗い・・・か。
他人から見れば、俺は暗いんだろうな。
「何か悩んでいるの?」
「…いや」
「うーん、なんなのかな?」
「俺が知りたいぐらいだ」
「へっ?」
そう、俺自身が知りたい。
俺がなにを求めているのか。
「きみの眼…」
少女が俺の顔を覗き込んでくる。
そして、俺の眼をジッと見る。
「寂しそうな…、悲しそうな…」
「………」
「そして、何も無いような…」
「!?」
少女の言葉にギクリとした。
俺には・・・、何も無い。
それが知られたような気がした。
「きみの眼には、なにが写っているの?」
「…?」
俺には少女の言った意味がわからなかった。
「きみの眼を見ていると、全てを拒絶しているように見えるよ」
「…そうか」
「何もかも、そして自分も…」
「………」
鋭い。
この少女は鋭すぎる。
俺の全てを見透かしたように、次々と言い当てていく。
だが、嫌ではなかった。
この少女は・・・
母以外、誰もわかってくれなかった俺を、理解してくれるのではないか?
俺はそう感じた。
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