第10話 支え
第10話
『支え』


「きみには……、ないんだね」

「…? 無い?」

少女が言った言葉。
無い?
確かに、俺には何も無い。
だが、少女の言っているのは、俺の考えてることとは違う・・・
そんな気がする。

「『支え』が…」

「支え?」

なにを言っているんだ?
支え・・・? 何のことだ?

「私はあるよ」

「………」

「お母さんが、私に残した言葉」

言葉。
俺にも、母が言ってくれる言葉がある。
だけど・・・

「その言葉を『支え』にしているの。前にも言ったでしょ?」

「ああ」

「だからなの。本当の理由は…」

「理由?」

「うん。あのとき、私がきみを止めた理由」

ああ。
俺がこの橋の手すりに登っていたときの事か。

「だから、どうしても放って置けなくて」

「………」

「…なれないかな?」

そう言って、上目づかいで俺を見る。

「きみの『支え』に…」

「俺の?」

支え? 俺の?
意味がわからない。
この少女は一体・・・

「きみの『こころ』の『支え』になれないかな?」

「…誰が?」

「私っ」

自分にゆびを指して言う。
その仕草は子供のようだ。

「きみって、失礼だね」

「………」

こいつは超能力者か?

「くすっ、考えてることが顔にでてるよ」

「………」

以後、気をつけよう。
でも、気をつけて何とかなる問題か?
素朴な疑問だった。

「私じゃ……ダメかな?」

「………」

俺には、いまいち意味がわからなかった。
少女は俺の支えになると言っている。
それは、どういう意味なんだ・・・?

「ぐすっ、私じゃダメなんだ…」

涙目になる少女。
そんな姿を見たら、邪険にできなくなる。

「勝手にしろ」

俺はそう答えるしかなかった。

「え?」

俺の言葉に、少女の顔がパッと明るくなる。

「………」

「うんっ!」

少女は元気に返事をすると、俺に抱き着いてきた。

「わーいっ」

「…くっつくな」

「やーだっ」

ふぅ、こういう所はまだまだ子供だな。
だけど、悪い気はしない。
なにも『無い』俺に、なにかが『在る』というのも・・・




トップへ戻る 第11話へ