第11話 一時
第11話
『一時』


また、いつもの日常。
いつものように、同じ場所、同じ時間にいる。
だが・・・

「こんにち……はっ!?」

今日は違った。
走ってきた少女は、なにかに躓き豪快にコケる。

「あう〜」

「………」

無言で少女を見る。
転んだ弾みでスカートがめくれたらしく、下着が見えた。

「………」

「痛いよぉ〜」

「…おいっ」

俺の言葉に少女は顔だけ上げる。

「うう…、なに? 助けてくれるの?」

「いや…、下着が見えてるぞ」

「………………えっ!?」

少女は慌てて飛び起き、俺を睨む。

「見たでしょ〜?」

「見えたからな」

「ううっ、えっち〜!!」

「………」

恥ずかしいのか、怒っているのか、少女は顔を真っ赤にする。
そして、ポケットからなにかを取り出し、それで顔を覆った。

「………」

「………」

なにやってるんだコイツは?
俺は尋ねてみることにした。

「なにやってるんだ?」

「は、恥ずかしいから顔を隠しているの」

「はぁ……ん?」

ふと気がついた。
少女の顔を覆っているのは、俺があげたハンカチだった。

「そんなもの…、まだ持っていたのか?」

「えっ? うん。宝物だから」

「安上りなヤツ」

「違うよぉ〜」

返事はするが、ハンカチで顔を覆ったままだ。

「それを取って話せ」

「は、恥ずかしいからダメ」

俺の立場も考えろよ。
こんな死人もどきと話したくないぞ。
まったく・・・

「…そらよ」

俺はハンカチを取った。

「…あっ」

「………」

「………ぽっ」

なぜか、少女は顔を赤くした。
いったい、少女の中では何が起こっているのだろうか・・・?

「あ、あのあのあの…」

「…まずは落ち着け」

「ううう、うん」

少女は深呼吸をし、気を落ち着かせる。
そして数秒後・・・

「忘れてね」

「…なにを?」

「その、見たこと…」

「忘れている。俺はクマの絵しか憶えていないぞ?」

「だからぁー! それを忘れてって言ってるのー!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ。
その姿はまさにお子様だ。

「あう〜、ぐすっ」

「…悪かった」

「い、いいよぉ。それに、見られたのがきみだけだから…」

「…それはどうかな?」

「…ええ!?」

少女は慌てて辺りを見まわす。
そして、頬が破裂しそうなぐらい膨らませて俺を見る。

「だ、だましたなぁ〜?」

「騙してない。誰もいない保証が無かったから、言っただけだ」

「ううー」

唸りながら睨む少女。
言い返したくても言い返せない。
そんな顔だ。

「じゃあな」

「え? 帰っちゃうの?」

少女の顔が一瞬で変わる。
今までの騒ぎが嘘のように・・・

「…そんな顔するな」

「…うん」

返事はするが、元気は無い。
そんな姿を見た俺は、自分でも信じられない行動をとった。

「…あっ」

「………」

俺は少女の頭をポンポンと撫でるように叩いていた。

「……ぽっ」

「またな」

「う、うんっ!」

少女の返事に満足し、帰ることにした。

何かが変わったような気がする。
少女と出会ってから少しずつ・・・
でも、俺の『無』は変わらない。
それは、俺の上辺だけが変わっただけで、内面は変わっていないからだ・・・




トップへ戻る 第12話へ