第12話 開
第12話
『開』


いつもの日常。
いつもの場所、いつもの時間。
俺はいる。
そして・・・

「こんにちはっ!」

少女もいる。
俺の『今』に割り込んできた者。
それが、この少女。

「今日も暗いねぇ〜」

「………」

「なーんてね。冗談だよ」

「………」

「ほ、ほんとに暗いね。どうしたの?」

「…いや」

俺の心に引っかかっている事があった。
少女のあの言葉。
あれはどういう・・・

「なんでも聞いていいよ」

「…!?」

「なーんか、聞きたそうな顔してるよ」

「………」

「さぁさぁ、お姉さんに話してごらん?」

考えるだけ無駄か。
俺は思いきって聞いてみることにした。

「その前に、俺の方が年上だ」

「わかってるっちゅーねん!」

「………」

「冷たい眼で見ないでよぉ〜〜」

「話を戻すぞ」

「…うん」

俺は橋の手すりにもたれ、青空を眺める。
すると、少女もつられて俺と同じようにする。

「…聞きにくいことなの?」

俺が無言でいると、心配そうに少女が尋ねる。

「…いや」

「そう? 遠慮しないで聞いてよ」

そう言って、あるか無いかわからない胸を張る少女。

「うっ、人が気にしていることを…」

「………」

俺って・・・
このままでは、会話に支障きたすのでは?
これじゃ・・・本音でトーク状態だ。

「べ、べつに大きくなくたっていいもんっ」

少女の口から出た言葉は強がりだった。

「まぁ、好みは人それぞれだしな」

「…どういう意味?」

「大きいのが好きな人もいれば、小さいのが好きな人もいるって事だ」

「ふーん」

俺の言葉に、少女は何故かホッとしたような顔をした。
気休めにでもなったのだろうか・・・

「えーと、きみは?」

「…?」

「きみはどっちが好きなの?」

核心を突く質問だった。
俺?
俺は・・・

「どうでもいい」

「どうでもいいって…」

「どうでもいいが、どちらかというと小さい方が…」

俺はそこまで言って、言葉を止めた。
案の定、少女はニコニコと嬉しそうな顔をしている。
俺って奴は・・・

「えへへっ、嬉しい〜」

「……ふん」

俺はなんとなく恥ずかしくなり、そっぽを向く。
すると少女は・・・

「照れない照れない」

追い討ちをかけてくる。
俺はそれを無視した。

「か〜わいいっ」

そんな俺を見て、少女はギュッと俺の腕に抱きついてくる。
その光景は恋人同士のようだ。

「他人から見ると、恋人同士に見えるのだろうな…」

「うん! だってそうだもん」

「…は?」

「私たち、恋人だよ。きみは私の彼氏」

「なった記憶はないが…」

「ちなみに、きみの彼女は私だよっ」

「なられた記憶もない」

どうやら、話が少女の中で勝手に進んでいるようだ。

「ちゃんと言ったよぉ〜」

「いつ?」

「きみの『支え』になるって…、あのときからだよぉ」

「またいい加減な…」

「…あっ! そう…だよね」

少女はパッと俺の腕から離れる。
なんなんだ?

「…?」

「きみには…、彼女がいるんだよね。ごめん」

「…え?」

「私みたいなのが付きまとっていたら迷惑だよね」

「…おい」

「ごめんね。1人で早とちりしちゃって…」

「…だから」

「ごめんね。バイバイ」

まったく・・・
俺は走り去ろうとした少女の腕を掴んだ。

「…えっ?」

「人の話を聞けって」

「…で、でも」

「まぁ、聞け」

「う、うん」

俺は何とか少女を留める事に成功した。

「俺に彼女はいない。ついでに、女の知り合いもいない」

「う、うそだよ〜」

少女は俺から目を逸らす。

「嘘じゃない」

「きみのような優しい人なら、絶対まわりが放っておかないよぉ」

「俺は優しくない」

「そんなことないっ」

「お前は…、俺の何を知っているというんだっ!!」

「…ひっ」

俺の突然の叫びに少女が驚く。
しまった、俺としたことが・・・

「…悪い」

「ううん。私の方こそ…」

そして、暫し沈黙が流れる。

「………」

「………」

「はじめてだね…」

唐突に少女が言った。

「きみが怒ったの」

「…悪い」

「謝るとないよ。私、嬉しいもん」

「嬉しい?」

少女は本当に嬉しそうな顔をする。

「怒るってことは、私に対して、それだけ心を開いてくれてるって事だと思うの」

「………」

「きみだったら、知らない人に何言われても無視するんじゃないの?」

「…ああ」

驚いたな。
この少女は、以外にも俺のことをわかっている。

「だから、気持ちをぶつけてくれるのは、心を開いてくれたと思うんだ」

「………」

「そ、それとぉ〜」

少女は顔を赤く染める。

「自惚れちゃってもいいかな…、なんて」

「…?」

「私以外に知り合いの女の子がいないって…」

「………」

「それに、自分は優しくないって言っていたけど、私にはとても優しいし…」

そこまで言い、少女は『少し乱暴だけどね』と付け加える。

「それって、私は特別なのかな〜〜、なんてね」

「…かもな」

「え? ほ、ほんと?」

「………」

自分がわからない。
俺はこの少女のことを、どう思っている?
何か思っているようで、何も思っていない。
だけど、何かが違う。

「きゃぁ〜〜☆」

「…うぉっ!?」

俺が1人で考えていると、突然、少女が抱き着いてきた。
いきなりなんなんだ?

「くぅ〜〜」

不明な声をあげ、俺の胸に頬を摺り寄せる。

「それにしても…、ペッタンコだな」

「えへへっ、好きなくせに」

開き直ったようだ。
切り替わりの早いヤツ。

「俺、実は大きい方が…」

「ガーーン!」

少女の口が、俺の拳が2つぐらい入りそうなほど開く。

「冗談だ」

「あっ、冗談? よかったぁ〜」

「だが、無いにもほどがあるぞ?」

「ガガーーン!!」

再び少女の口が開いた。
今度は拳が3つぐらいか・・・
そして、少女の口が戻ったのは、これから1時間後のことである。




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