第13話 理由
第13話
『理由』
いつもの日常。
いつもの場所、いつもの時間。
俺はいる。
そして・・・
「こんにちはっ!」
胸のない少女もいる。
「うう、好きでないわけじゃないもんっ」
「まぁ、そうだな」
そりゃそうだ。
自分で望んでなれるのなら、俺は・・・
「まーた、難しい顔して」
「…え?」
「今日はどうしたの? ん? お姉さんに話してごらん」
「………」
まったく、いつも明るいヤツだな。
だからかもしれない。
今まで他人を相手にしなかった俺が、こうして少女と話しているなんて・・・
「冗談はおいといて、この前の話だけど…」
「この前?」
「うん。結局、私に聞きたかったことってなに?」
あっ、あれか。
前は話が変な方向に向かってしまい、聞くことを忘れていたな。
そうだな・・・今、聞いてみるか。
「どうして、俺のやったハンカチが宝物なんだ?」
「え? あ、そのこと?」
「ああ」
そう、俺は疑問に思う。
なぜ、俺があげたハンカチを宝物にしたのか・・・
その理由を。
「えと、話すけど、絶対笑わない?」
「あ、ああ」
「ほんと?」
「ああ、信じていいぞ」
「ほんとにほんと?」
しつこいヤツだな。
どう言えば信じてくるんだ?
「もし、俺が笑ったら何でも奢ってやる」
「約束だよ?」
「ああ」
「もし笑ったら、3階建ての豪邸(プール付き)を買ってね」
「おい待て…」
「じゃあ、話すね」
俺の静止も聞かず、少女は語りだした。
「その、はじめてなの。誰かから物を貰ったのって」
「はじめてって…、親からは?」
「お母さんからは貰った事もあるけど、私が小さい頃に死んじゃったし…」
「………」
「だから、お母さんがいなくなってから、何かを貰ったことがなかった」
「……そうか」
いろいろ苦労してきたんだな。
いつもは、その欠片も表さないくせに・・・
それが少女の強さか。
「嬉しかったの。きみがハンカチをあげるって言ってくれたとき…」
「………」
「きみにとってはただのハンカチでも、私にとっては宝物にするぐらい大切なものなの」
大切なもの。
それは、人それぞれだと思う。
人の価値観が違うように、また宝物も人それぞれ・・・
俺はそう思う。
「何を貰ったじゃなくて、くれた人の気持ち。それが嬉しかった」
少女の目から一粒の涙が流れる。
「…ぁっ」
そして、それを合図に次々と涙が流れていく。
「ぐすっ…、私、こんなに泣き虫じゃないのに…」
「…おい」
「こ、これは悲しくて流れてるわけじゃないから…」
そんなことはわかっている。
話の流れを見れば、一目瞭然だ。
「…サービスだ」
「えっ?」
「一つだけ、お前の願いを叶えてやる」
「ええ??」
「ただし、俺が出来ること限定だ」
俺がそう言うと、少女は俯いた。
そして、考えていたのだろうか、暫くしてこう言った。
「す、少しだけでいいから…、抱きしめて」
消えそうな声。
とても『光』を持った少女とは思えない声。
それを聞いた俺は、無言で少女を抱きしめた。
「…あっ」
「………」
「…ありがとう」
「………」
少女の髪を優しく撫でる。
俺は自然とそんなことをしていた。
「…気持ちいいよ」
「………」
俺は何をやっているのだろう?
はじめて人を抱きしめた。
なぜ俺はこんな事をしているのだろう・・・
わからない。
自分ではわからない。
だけど、他人にはわからない。
それがわかるのは自分だけ・・・
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