第14話 母
第14話
『母』
「ただいま」
「おかえり」
いつものように帰ると、母が出迎えてくれる。
「…調子はいいのか?」
「うん。最近は発作もでないし大丈夫よ」
「そう…」
母はニッコリと笑うが、顔色は良くない。
無理をしているのだろう。
「晩御飯まだでしょう?」
「…うん」
「じゃあ、用意してあるから食べましょう」
母と台所へ行き、食事をすることにした。
「………」
「どう? おいしい?」
「うん。美味しいよ」
「そう、よかった」
母はいつも同じ事を聞く。
俺はいつも同じように答える。
何気ない会話。
何気ない生活。
悪い気はしない。
だけど、俺には無い。
「そんな顔しないの」
「…ごめん」
「謝ることはないのよ。ただ、あなたが元気でいれば母さんは…」
心配そうな、それでいて元気を与えるような顔する。
母は強い。
こんな状況におかれても、俺に気を使ってくれる。
「そうそう」
「…?」
母は、何かを思い出したように言った。
「あなた、彼女ができたの?」
「…えっ?」
ど、どうしてそれを・・・?
「可愛い女の子ねぇ〜」
「えっ、いや」
なぜ知ってるんだ?
どこで知った? いつバレたんだ?
「ああいう子が好みだったのね」
「いや、違…」
ダメだ。
嘘がバレバレだ…、隠しとうせない。
「厳密に言うと、彼女じゃないんだ」
「あら? そうなの?」
「まぁ、あいつが勝手に言っていることなんだ」
「『あいつ』って、彼氏気取りじゃない?」
「違うって! 俺は…」
「ふふふっ」
まったく・・・
母さんにはかなわないな。
でも、こんなに嬉しそうに話す母を見たのは久しぶりだ。
「腕を組んだり、抱き合ったり、恥ずかしくないのかしらねぇ〜」
そう言って母は、ふう〜とわざとらしくため息をつく。
「…なんで知ってるの?」
「あら? そんなことをしたの? あらあら…」
「………」
やられた・・・
完璧にハメられた・・・
俺ってヤツは・・・ふぅ。
「ふふっ。何をしたのかは知らないけど、彼女といるのは見たわよ」
「そ、そうなんだ」
「あなたは彼女のこと、どう思っているの?」
「俺?」
俺は・・・
「わからない」
「…そう」
「あいつは、俺には無いものを持っている。それも、他の人より大きなものを…」
「………」
母は黙って頷く。
それを見た俺は、話を続けた。
「惹かれているのかもしれない。自分に無いものを持っている少女に…」
「彼女が持っているものは・・・」
「………」
わかっている。
俺には『それ』がない。
だが、少女は『それ』を持っている。
「母さんは、いつか、あなたには持ってもらいたいと思うの」
「わかってる」
「では、この話はこれで終わり」
「…うん」
俺が苦手とする話に区切りをつける。
これが母の優しさなのだろう・・・
「彼女はどんな子なの?」
「えっ? その話?」
「うん。母さん、どんな子か知らないし…」
「………そうだな〜」
思い出す。
少女の姿、少女の言葉、少女の仕草。
少女の強さ。
「俺より2つ年下なんだけど、見た目が小学生みたいなんだ」
「可愛いわね」
「まぁ、そうだな。ついでに言うと、中身も小学生並だ」
「あらあら」
「でも、芯は俺よりも大人で、俺よりもしっかりしている」
「…ふふっ」
微笑む母。
なにが面白いんだろうか?
「どうしたの?」
「彼女のことを話している時、嬉しそうな顔をしているから」
「………」
ポリポリと頭を掻く。
そんな俺を見て、また母が微笑む。
「ふふっ。まあ、彼女を大切にね」
「…ああ」
「乱暴なことしちゃダメよ」
「………ああ」
それは遅いかもしれない。
もう、言われたし・・・
「早く孫の顔を見せてね?」
「…どうしてそうなる?」
母さん、話が飛びすぎだよ。
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