第16話 不
第16話
『不』
どこをどう歩いていたか憶えていない。
気がついたら、母の墓の前にいた。
「…母さん」
墓を見る。
もう、母はいない。
俺には誰もいなくなったんだ。
本当に・・・
「どうして、死んだんだ?」
母がなにをした?
なぜ母が死ななければならない?
「くそっ」
腹が立つ。
何に対してかわからない。
だが、腹が立つ。
自分に対して腹が立つ。
全てに対して腹が立つ。
「くそっ、くそっ」
地面に座りこむ。
そして、地面を殴る。
手から血が出てきた。
俺はそんなことはお構いなしに殴りつづける。
「やめてっ」
声と共に、誰かが俺の首に抱き着いてくる。
「やめてっ! もう、やめて…」
「お前…」
少女だった。
あの少女だった。
「どうして、ここに…?」
「ぐすっ、きみの姿が見えたから着いてきたら…」
そうか・・・
「そんなに…、ぐすっ、自分を責めないで」
「なぜ、お前が泣く?」
「だって、きみの痛みがわかるから…」
「………」
わかる?
俺の痛みがわかるだと!?
「お前に何がわかるっていうんだ!?」
俺の怒鳴り声に怯む事もなく、少女も言い返してくる。
「わかるよっ」
「わかるわけがないっ」
俺は吐き捨てるように言った。
「じゃあ、その涙はなんなの?」
「…え?」
少女に言われて気づいた。
俺は涙を流していた。
自分でも気づかぬうちに・・・
「その涙は、心の痛みだよ」
「心の…痛み?」
「うん」
心の痛み?
俺には痛みを感じる心があるのか?
「…違う」
「えっ?」
「俺は…、違う」
そう、俺は違う。
俺は痛みを感じない。
俺には何も無い・・・
だから、感じない。
痛みも・・・
なにも・・・
「違わないよっ!」
「うるさいっ!!」
「きゃっ!」
俺は少女を地面に押し倒した。
そして、その上にまたがる。
「ちょ、ちょっと…」
「………俺は違う」
「違わ…」
少女が何かを言うとしたが、途中で止まる。
「いたっ!」
俺は、まだ発達していない少女の胸を服の上から鷲掴みにした。
「や、やめて…」
「………」
少女の哀願を無視して、さらに力をこめる。
「い、いたいよっ! きみは…こんな事をする人じゃないっ」
俺から逃れようとするが、しょせんは女。
男の力には勝てない。
「やめて…、きゃっ」
少女の股に手を伸ばす。
そして、スカートをめくり、下着の上から触る。
「うぁっ、んんっ」
少女の体が震える。
刺激からか、恐怖からか・・・
「だ、だめだよ…」
「………」
少女の体から力が抜ける。
観念したのだろうか、抵抗することもなくなった。
「うんっ、ぁぅ」
「どうした? 諦めたのか?」
俺は尋ねながらも、下着越しに少女の大事な部分を触る。
「んん、それで…きみが元に戻ってくれるな…ら、あん」
「ふんっ」
俺は容赦無く攻め立てた。
「くんっ! き、きみになら…なにされて…も、あぅ、いい…よ」
「…!」
少女の顔。
それは、母の顔と同じだった。
自分がどんな状況におかれても、俺を心配する・・・
そんな顔だった。
「…?」
「………」
それに気づいたとき、俺の手は止まっていた。
そして、少女の上にポタポタと水滴が落ちる。
「…泣いてるの?」
「………」
俺は泣いていた。
無性に悲しくなり、涙が零れた。
止まることなく・・・
「泣きたいときは、沢山泣いていいんだよ」
そう言って、少女は俺の頭を自分の胸に抱き寄せる。
「くっ、うう…」
「悲しかったんだよね。寂しかったんだよね」
俺の頭を優しく撫でてくれる。
それはまるで母のようだ。
「うう、うう…」
「ぐすっ、もう…我慢しなくていいんだよ」
「ううう…」
「よしよし」
俺は頭を撫でられながら、泣きつづけた。
そして・・・
何かが切れた。
全てが無くなった。
トップへ戻る 第17話へ