第17話 失
第17話
『失』
いつもの場所、いつもの時間。
あの人はいた。
何をするわけでもなく、ただ、立っていた。
「こんにちはっ!」
私は元気よく声をかけた。
「………」
「返事は?」
「………」
今までのような返事が返ってこない。
この人は変わってしまった。
あの日・・・
私がはじめて見た涙・・・
この人の涙・・・
「元気…、だしてね」
「………」
あの日以来、この人から光が無くなった。
この人には『光』があった。
僅かな光、ほんの少しの光が宿っていた。
それを見た私は、この光を消してしまってはいけないと思った。
今にも消えそうな光。
私はそれを輝かせようとした。
でも・・・
ダメだった。
この人は何もかも無くしてしまった。
小さな光さえも・・・
「………」
「………」
沈黙が流れる。
この人から話し掛けてくれることはない。
だけど、私から話しても返事をしてくれない。
この人の眼には何も写ってないから・・・
「…じゃあな」
「…あっ」
去ってしまう。
この人が去ってしまう。
私は引きとめようとしたが止めた。
引きとめても、今の私ではどうすることもできない。
「……バイバイ」
見送ることが精一杯だった。
無言で歩いていく姿を見送る。
悲しかった。
そんな姿を見ている自分が・・・
引きとめることができない自分が・・・
悔しかった。
何もできない自分が・・・
「…ぐすっ」
不意に涙が流れた。
私・・・
どうしたらいいの?
お母さん、私、1人の人も救うことができないの?
「…救いたい」
救いたいよ。
あの人を・・・
私の大切な人を・・・
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