第19話 与
第19話
『与』


数日が経った。
だけど、あの人は元に戻らない。

いつもの場所、いつもの時間。
いつものようにいる。
それだけは同じ。

「こんにちはっ」

「………」

私が声をかけても、返事をしてくれない。
あれ以来・・・
まともに話したことは無かった。
唯一、去るときだけ言葉を言ってくれる。
それだけだった。

「元気だしてよぉ〜!」

私は泣きそうになるのを我慢し、元気に抱きついた。

「………」

「前みたいに、髪を撫でて?」

「………」

なにもしてくれない。
ただ、見上げた私を見つめるだけ。

「………」

「…お願い」

私はすがるような思いで言ったが、ダメだった。
この人は光の無い眼を私に向けるだけだった。
どうして?
どうして・・・、こんなことになっちゃったの?

「私…、わかんないよっ」

「………」

「私どうしたらいいの? きみはどうしたら戻るの?」

「………」

不意に涙が溢れる。
もう、いい。
泣いてもいい。
抱きしめてくれなくてもいい。
この人の胸の中で泣きたかった。
ただ・・・
今は泣いていたかった。

「ううっ…」

「………」

「ぐずっ…、うう」

「………」

こんな私を見てもこの人は無反応だった。
それが・・・とても・・・
痛かった。
心が痛かった。
痛い、割れるように痛い。
もう、我慢できない。
この人の側にいると、私はどんどん傷ついていく。
そんな自分に耐えられない。

「ぐすっ、ごめんね…」

私はこの人から離れることにした。
このままいると私は・・・

「…? あれ?」

あれ?
離れられない・・・どうして?

「…!」

この人は・・・
自分でもわかっていないんだろう。
無意識で私を抱きしめている。
とても弱く、私が気づかないくらい。
でも、抱きしめている。
私を・・・
この人の手が・・・しっかりと。

「…うん」

バカだな。
こんなになっても私を思ってくれる人を・・・

「『彼女』失格だね」

彼氏を信じられないような女の子は嫌いだよね?
でも・・・
もう、大丈夫だよ。
きっと光らせてあげる。
悲しみに負けないぐらいの光を・・・
なにものにも屈しない光を・・・
人を支えることの出来る光を・・・

「きみに与えてあげるよ」

あなたを好きな、私という名の『光』を・・・




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