第20話 輝
第20話
『輝』


それは突然の事だった。
誰も予想もしなかったと思う。
私も考えもしなかった。

あの人が死んだ。

信じられない話。
でも、事実。
あの人は、もう・・・いない。
私の前からいなくなってしまった。
それは・・・
私を助けたから。
私を助けるために、あの人は死んだ。


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いつもの場所、いつもの時間。
私はいた。
あの人もいた。

「ねぇ、こんなことがあってね…」

「………」

返事をしてくれないこの人に対して、私は話し続けた。
少しでも光るように・・・
希望を託して・・・
私は話し続けた。

「…でね」

「………」

いくら私が話しても、返事をしてくれない。
ただ、聞いているだけ。
それもどうかわらない。
だけど、私はそれでも満足だった。
この人の心はわかったから。
心の中には、まだ私がいることがわかったから。

「…なのよ」

「………」

だから頑張れる。
この人の眼に再び光を宿すため・・・
もう一度、微笑んでもらうため・・・

「…?」

何処からか大きな音が聞こえる。
なんだろう?

「…!?」

それは突然だった。
一台の乗用車が歩道を乗り上げ、私たちの所に突っ込んできた。

「………」

言葉が出ない。
私・・・死ぬの?
死んじゃうの?

「…きゃっ!?」

突然、私は突き飛ばされた。
そして、2メートルほど離れたところに尻餅をつく。

「いたた…」

私を突き飛ばした人物。
それは・・・

「……っ!」

( ガシャーン! )

あの人は乗用車ごと下の海に落ちた。

「………」

そ、そんな・・・
どうして?
なぜ・・・なぜ?

「い、いやぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


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そして、あの人はいなくなった。
私を助けるために・・・
もしかして、私のせい?
私がいたから?

『そんな考え方はダメだよね』

なぜだかそう思う。
あの人はきっと言うから・・・
お前が悪いんじゃない・・・って。
きっと・・・

『……でも』

あなたに『光』を与えることができなかった。
光らせることができなかった。
それが私の心残り。

『だけど…』

これは私の気のせいかな?
私を突き飛ばしたときの眼。
あの眼は・・・
あの眼には『光』が宿っていた。
僅かだけど・・・
小さな光・・・
あれは見間違いじゃないよね?

『…うんっ!』

私、見たよ。
あなたの最後の光。
忘れないよ。

『あなたの事、忘れないから…』

これでいいんだよね?
あの人は納得してくれる・・・絶対。
私にはわかる。

なぜなら
私も本当は、『全てを無くしている』から・・・
お母さんだけじゃない・・・
お父さんも・・・




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