参 夢現
参
『夢現』
俺は狂っていない。
狂ってなどいないんだっ!
なぜ、人は俺を狂っていると言う?
何一つおかしくない俺を・・・
なぜ、そう言うんだ?
どうして俺を認めない・・・
認めてくれない。
どうして?
どうしてなんだ?
「どうしてなんだよーっ!!」
俺はベッドから跳ね起きる。
すると『きゃっ!』と言う声が近くで聞こえた。
声のする方を見ると、氷澄が驚いたような顔で俺を見つめる。
「……ふぅ」
ひとつため息を吐く。
夢か?
あれは夢なのか?
現か?
あれは現なのか?
わからない・・・どちらとも言えない。
だが、どちらとも言える。
「……氷澄」
「……あ、うん。なに?」
「………なにをしている?」
俺はベッドにいるのだから寝ていたのだろう。
だったら、なぜ氷澄が側にいるんだ?
いや、ところで今は何時だ?
「こ、恐い夢でも見ていたの?」
「……なぜ?」
「だって……泣いていたから」
泣いていた?
俺は氷澄の言葉を確かめるため、眼の辺りに手を持っていく。
するとそこはしっとりと濡れていた。
「………」
「なんだか苦しそうだったよ」
「………」
「それとも悲しい夢?」
悲しい・・・か。
そうかもしれないな。
誰も俺を認めてくれない。
俺の言うことを信じてくれない。
「あっ、急がないと遅刻しちゃうよ?」
「…遅刻?」
「なーに寝ぼけてるのよ、大学にきまっているでしょう?」
そうだったか?
まぁ、いい。
所詮、俺の言うことなんか誰も信じてくれない。
だが・・・
はたして氷澄も俺の言葉を信じてくれないのだろうか?
俺は聞いてみたい欲求に駆られたが、それを抑えた。
なぜなら俺は恐れている。
否定されることに恐怖を感じる。
俺の言葉を受け入れてもらえないかもしれないと怯えている。
「…涼ちゃん」
「……なんだ?」
「早く行こう?」
氷澄は笑顔でそう言った。
それでも俺は恐れている。
氷澄が否定するのではないかと思えてならない。
なぜなら・・・
なぜなら・・・それは・・・
俺は一度、氷澄に否定されているから・・・
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