エピローグ『夏の風』
エピローグ
『夏の風』


ミーンミンミンミン。

夏も終わろうかという頃。
まだまだ元気にセミが鳴いている。

「長閑だねぇ〜」

休日、近所の公園に駆り出した俺は昼間っからベンチに寝転がっていた。
ここはなかなかの穴場で、静かな上に日陰で絶好の昼寝場所だったりする。

「彼女、今頃どうしているのかな?」

あれから数年経つのだが、この季節になると思い出す。
何かしら答えを探した旅なのだが、俺は何も見つからないと思っていた。
だが、あの旅で何かが変わった。
今の俺はフリーターをやめ、自ら正社員を願い出て働くことにした。
なぜかは知らないが、今の生活を地盤から固めたかったのかもしれない。

これらも全て彼女に出会ってから、そう思うようになった。
今の俺があるのは彼女のおかげ。
結果的に彼女が俺を少しだけ変えてくれた。

そんな彼女を俺は今でも好きだ。
時が経ってもその想いは色褪せることなく、心に染み込んでいる。

『もし、また会ったとき、あなたがひとりなら私を側においてください』

彼女と最後に交わした言葉。
すなわちそれは約束でもある。
俺は今でもその約束を守るつもりでいるのだが、彼女の方がひとりという可能性の方が低い。
なんせ、あんな可愛くて優しい子を周りが放っておくはずがないからだ。

「やはり、俺は選択を誤ったか?」

そして、度々後悔する・・・自分の選択に。

「ふぅ、今日もいい天気だ」

過ぎたことは悔やんでも仕方ない。
俺はそれらを振り払うかのように目を開くと、木々の隙間から心地よい日差しが降り注いでくる。

「ふわぁぁぁ〜、ちょいと一眠りするか…」

あまりの気持ちよさにウトウトと眠気にさらわれていった・・・。

………

「……ん?」

どれくらい経ったのだろうか?
いつの間にか辺りは茜色に染まり、日が沈みかけていた。

「ふわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」

大きな欠伸をひとつ。
そして、ふと気づく・・・寝る前と何かが違っていることに。

「ふふっ、おっきな欠伸ですね?」

「ああ、景気づけの一発だよ」

懐かしくもあり、ずっと聞きたかった声。
俺はその主の膝枕の上であのときのように気兼ねなく答えた。

「答えは見つかりましたか?」

「そうだなぁ…、見つかったよ」

「それはよかったです。そ、それで……あの…その…」

「“ひとりでは見つけられない”って答えがね」

ふさぁぁぁぁ〜〜!!

風が吹いた。
ずっと忘れていた懐かしい風。

あの夏の風が再び・・・




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