プロローグ 初夏の日
プロローグ
『初夏の日』


初夏。
季節は春を見送り――夏を呼ぶ。

夏に入っても、この時期はまだ暑くない。
本格的な夏はこれからだ・・・

コツコツコツ
俺は松葉杖の音を鳴らしながら歩く。
なんだかんだ言っても、今じゃコイツは俺の片足も同然だ。
コイツが無ければ俺は歩くこともままならない。
それを雪に言ったら・・・

『私が浩ちゃんを支えながら歩いてあげるよっ』

なーんてことを言った。
そんな雪の申し出を俺は丁重に断った。
あたりまえだ――俺は雪の重荷にはなりたくないのだから・・・

「雪は……後悔してないだろうか?」

あいつは俺を選んだ。
体の不自由な俺を――選んだ。
同情からだろうか?
俺が足を失ったのが自分のせいだと感じたからだろうか?
もし、そうだったら・・・

「浩ちゃ〜〜〜〜ん」

俺は声のする方に振り向く。
そこには――俺に向かって走ってくる雪の姿があった。

「……愚問だな」

俺は呟く。
こっちに走ってくる雪の顔。

その顔は――とても嬉しそうに微笑んでいた。

初夏の日。
夏の日差しにはまだまだ遠い光が公園を照らす。

これから来る暑い夏。
俺の好きな夏が――来る。




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