第1話 想い
第1話
『想い』
6月上旬。
季節はゆっくりと夏に近づきはじめる。
キーンコーンカーンコーン
講義終了を知らせるチャイムが鳴る。
「さて、今日はこれで終わりだ」
俺は帰り支度をして教室を出る。
コツコツコツ
そして――校門に向かう。
俺と雪は同じ大学に通っている。
だけど、受けている講義は違うので、いつも帰りは校門前で待ち合わせという事にしている。
「雪のヤツ……いるか?」
コツコツコツ
俺は校舎を出て――校門に向かう。
「――あ、浩ちゃん」
雪の方が先にいたようだ。
俺に向かって手を振る。
「……誰だ?」
雪の近くには他の生徒がいる。
男ではないようだが・・・
「こんにちは」
雪のいるところまで行くと、知らない生徒が俺に挨拶をする。
「あ、こんにちは」
俺も挨拶をする。
「この人は?」
誰だかわからないので、雪に尋ねる。
「私のお友達っ」
「…そうか」
変な紹介の仕方だな。
普通は名前を教えるだろう?
「この人が浩ちゃん」
雪は俺に指を指して言う。
「ああ〜、この人が!」
「??」
雪の友達が驚いたような声を上げる。
「へぇ〜、この人が…」
そして、次は感心したような声を上げる。
「おい、雪」
「あはは、浩ちゃんの事――話したの」
「なっ…」
なんだと?
ま、まさか・・・
「あのことを話したのか?」
「…う、うん」
なんてこった!
めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
「浩一さんって、とってもカッコイイんですね!」
「………」
雪のヤツ・・・
あれほど話すなって言っておいたのに!
「…まったく」
「ご、ごめんね」
ふぅ、過ぎたことは仕方がない。
今回は大目に見てやるか。
「浩一さんっ」
「え?」
雪の友達が声をかけてくる。
「雪音ちゃんを泣かしちゃダメだぞ?」
「………」
去ろう。
この場を今すぐ去ろう。
俺は居づらくなり、雪の手を無理矢理引っ張る。
「じゃ、じゃぁ〜ね〜〜」
「うん、バイバ〜イ」
引きずられながらも雪は別れの挨拶をする。
相変わらず器用なヤツ・・・
コツコツコツ
トコトコトコ
俺の松葉杖の音と雪の足音が重なる。
「あんまり俺のことは話すなよ」
「う、うん。わかった」
帰宅中。
俺はさっきあったことについて考える。
「それにしても――恥ずかしかった」
「ごめんね。でも、浩ちゃんは私の自慢の…」
「自慢の……なんだ?」
「か、彼氏…………だから」
顔を真っ赤にして言う雪。
そんな姿を見ると、自然と怒る気も失せた。
「次からは気をつけてくれたらいい」
「うん、ありがとう」
ぎゅっ
雪が俺の腕に抱きついてくる。
「お、おい…」
「えへへ! 私達、恋人同士だから、こういうことしてもいいよね?」
「…か、勝手にしろ」
俺は気恥ずかしくなり、素っ気なく返す。
「うんっ」
そんな俺を見て、雪は満足そうに返事をする。
――雪には勝てないな。
俺と雪の関係は順調。
大学に通うようになっても、大した変化はない。
ただ・・・
ただ、最近思う。
ずっと俺が雪を想い続けることができるだろうか?
雪も俺を想っていてくれるだろうか?
トップへ戻る 第2話へ