第3話 涼風
第3話
『涼風』


7月上旬。
季節は完全に夏に入り、虫たちがざわめく。

「あ、暑いねぇ〜〜」

「夏だからな」

今日も今日とて、俺達はいつもの公園にいる。
大学も夏休みに入り、俺達は毎日のように会っている。

本当は夏休みはバイトをしたかったのだが、この体ではどこも雇ってくれない。
現実は厳しいものだ。
だけど、そんな俺に気を遣ってか、雪はずっと俺の側にいてくれる。
それは何物にも代えることのできない大切なことだ。

「これくらいの暑さでダウンか? 8月はもっと暑いんだぞ?」

「私……死んじゃうかも……」

「おいおい、そんな簡単に死んでくれるな」

雪の暑さに弱いのは尋常じゃない。
だが、それなのに今まで耐えてこられたのは何故だ?

「雪」

「……うん?」

雪は返事をするが、ダレている・・・
こりゃダメかもな。

「暑さ対策をしているか?」

「…………全然してないよ〜」

どんどん返事が遅くなってきている。
思考回路に支障をきたしはじめたか?

「じゃぁ、怖い話をしてやろう…」

「!?」

一瞬、雪の体がビクッと動く。
雪は怖い話が嫌いだ。
それも極端なほどに・・・

「ここの公園はなぁ〜」

俺は声のトーンを落とす。

「………カタカタ」

雪の体が震えだす。
それを見た俺は、構わず続ける。

「夜になるとぉ〜〜」

「きゃぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

がばっ
雪は悲鳴を上げながら俺に抱きついてくる。

「ははは、どうだ? 涼しくなっただろう?」

「す、涼しいのを通り越して………寒くなったよぉ〜」

そう言う雪の体はカタカタと震えている。

「それはよかった」

「よ、よくないよぉ〜」

震え続ける雪。
ちょっとやり過ぎてしまったか・・・

「大丈夫だ」

俺は抱きついてる雪の背中に手を回す。

「…浩ちゃん」

「悪かった」

「ううん」

雪の体から震えが無くなる。

「……浩ちゃ〜ん」

雪は顔を赤くしながら俺を見上げる。

「ん? どうした?」

「………………あつい」

「………」

ムードもくそもあったもんじゃない。
雪の一言で全てが潰された。

「はいはい、これでいいか?」

俺は雪を解放する。
名残惜しいが仕方がない・・・

「ご、ごめんね〜………………………あつ〜〜〜〜い」

ぱたぱたぱた
雪は服の胸元をひっぱり、中に風を通す。

「また、下着は付けてないのか?」

俺は中が見えたので指摘する。

「暑いし、胸がないから………………えっち〜」

雪の返事は明らかにスローテンポだった。
その上、怒っているわけでもない。

「完璧に壊れちまったな」

俺はひとり毒づく。

「雪は胸がないのか?」

雪が前にも言っていたことが気になったので、聞いてみた。

「自分では認めたくないけど……そうなんだよ〜」

――と、普通に返事が返ってきた。

「俺は小さくてもいいと思うぞ」

「えへへっ、じゃぁ――私もそれでいい」

暑さにやられたのか、雪の言葉は微妙に変だった。

「………溶けちゃいそう〜」

「“雪”だけにか?」

「………」

ひゅぅぅぅぅぅ〜〜
俺的には最高のギャグのつもりだが、なにやら不穏な空気が流れる。

「………」

「………」

「………」

「………」

「……浩ちゃん」

だが、その空気は雪の言葉で破られる。

「なんだ?」

「………涼しいね」

「うるせー」

雪の冷ややかな一言。
それにより、俺まで涼しくなってしまった。



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