第4話 夏祭り
第4話
『夏祭り』


7月下旬。
今日は恒例の夏祭り。

「……夏祭りか」

妹の真奈は友達と約束だとかで出かけていった。
たぶん、祭りに行ったのだろう。

「………ふぅ」

去年までは雪と一緒に行っていたのだが・・・

「この足だと――な」

この姿では行きたくない。
俺が行くと雪に迷惑をかける。
それに――他人の目が俺の方に向けられるのが嫌だ。

俺だけじゃない。
それは雪にも向けられるかもしれない・・・
こんな俺と一緒にいるがために。

「……やれやれ」

俺ってヤツが嫌になる。
こんなことをウジウジ考えても仕方がないのに・・・

ピンポーン
そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

「雪だろうか?」

コツコツコツ
俺は玄関まで行き、扉を開ける。

ガチャッ

「はい、どちらさま?」

「私だよっ」

そこには浴衣姿の雪がいた。

「雪か――どうした?」

「えっとね、一緒に外に行かない?」

「え? ああ、構わないが…」

「それじゃ〜〜行こうっ」

雪は俺の手を引っ張る。

「わかった、わかったから手を引っ張らないでくれ」

「やだよぉ〜」

まったく――俺は五体満足じゃないんだぞ?
でも、そんな俺に今まで通りに接してくれることが嬉しい。

「…雪」

お前には感謝してるよ。

「うん?」

「いや、なんでもない」

俺は雪に手を引かれながら歩いているとき思った。
どこに行くのだろう?
――そうか。
あそこか、雪のことだからあそこに行くんだろう。
だから・・・

“一緒に外に行かない?”

――と、聞いてきたんだろう。
雪らしいというか・・・なんというか。

トコトコトコ
コツコツコツ
雪に連れて行かれた場所はいつもの公園だった。

「……行こう?」

「あ、ああ」

俺は返事をすると、雪と一緒に公園の中に入る。
そして――いつものベンチに並んで座る。

「…悪いな」

「え? なにが?」

「雪に気を遣わせてしまって…」

雪は俺に気を遣って、公園に来たんだ。
俺が人の集まる場所を嫌がると思って・・・
それを見通して連れてきたんだ。

「そ、そんなことないよ」

「…ありがとう」

「う、うん」

雪は顔を赤く染めて俯く。
そんな雪を俺は抱き寄せる。

「……浩ちゃん」

「夏祭り――行きたかったんだろ?」

「わ、私は別に…」

雪のウソはバレバレだ。
俺には雪が本当は行きたがっているのがわかる。
わかるけど――どうすることもできない。

「来年は――行こうな」

「え?」

「来年は俺と一緒に夏祭りに行こう」

「うんっ」

そう、来年は行こう。
今は行けないけど――来年こそは
雪と一緒に・・・
雪の喜ぶ夏祭りに・・・




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