第5話 花火の下で
第5話
『花火の下で』
「ねぇ、浩ちゃん」
「ん?」
星々が浮かぶ空。
時間は夜になったが、俺達はまだ公園にいた。
「9時から花火が打ち上げられるんだよ」
「そうか、それは見てみたいな」
「うん」
花火。
それは儚さと美しさを兼ね備えたもの。
はじめは美しいが――最後は儚く終わる。
「今何時かな?」
雪はポケットから腕時計を取り出して見る。
「…もうすぐだね」
「それじゃ、行くか」
俺は松葉杖をついて立ち上がる。
すると、雪もつられて立ち上がった。
「行くってどこに?」
「近くの河原だ」
「かわら?」
「ああ、そこからだと花火がよく見えるんだ」
俺はそう言うと、雪の手を取って歩き出す。
「あっ…」
「行くぞ」
「うんっ」
雪がギュッと俺の手を握り返してくる。
俺は雪の温もりを感じながら河原に向かった。
ザッザッザ
河原に着くと、花火はもう始まっていた。
「わぁ〜〜」
雪が歓喜の声を上げる。
「ここらでいいか」
俺はそんな雪を無視して適当に座る。
すると、雪も俺の隣に座る。
「すっごいねぇ〜」
「ああ、毎年凄いな」
ドーン!ドーン!
花火が豪快に打ち上げられる。
「この花火は金が掛かっていそうだ」
「もう、そういう現実的なことは言わないのっ」
そんなことを言いながら雪は俺の腕に抱きついてくる。
「ははは、そりゃそうだな」
こんな時は現実を忘れるのがいい。
俺も今は忘れよう・・・
「…きれいだね」
「そうだな」
確かに花火は綺麗だ。
だが、俺にとってはお前の方が綺麗だ。
浴衣姿の雪。
俺にはお前が花火以上に綺麗に見える。
「雪の方が綺麗だ」
「…え? なにか言った?」
花火の音で聞こえなかったらしい。
俺は少し残念に思いながらも、雪の頭に手をもっていく。
「うん? 浩ちゃん??」
「…雪」
俺はそっと雪の頭を引き寄せる。
「こ、浩ちゃん…」
「雪」
「…うん」
俺と雪の唇が重なる。
雪の唇はとても柔らかく――温かかった。
「……ん」
雪の目から一筋の涙が流れる。
その涙がなにを意味するのか――今の俺にはわからなかった。
2人の時間がゆっくりと流れていく。
花火が空を彩る下で――2人はお互いを求める。
今という時間をかみしめるように・・・
ゆっくりとお互いを確かめる。
確実に・・・ゆっくりと・・・
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