第1話 2人
第1話
『2人』
3月上旬。
春は姿を現しはじめた。
「ねぇ、浩ちゃん」
「あ?」
「もうすぐ卒業だね」
「そうだな」
卒業。
俺達はもうすぐ卒業する。
――そんな年だ。
「高校生活も終わりだな」
「うん。なんだか寂しいね」
「……ああ」
寂しそうに言う雪を見ると、俺まで寂しくなってくる。
いつも明るい雪だが、たまに寂しそうにする。
それは付き合いだしてわかったことだ。
「――浩ちゃん」
ひしっ
雪が俺の腕にしがみつく。
「雪?」
「ずっと――ずっとずっと一緒だよね?」
…雪。
こいつは俺と離れたくないのだろう・・・
そんな雪の気持ちがわかる。
俺も同じだから・・・
「ああ、ずっと一緒だ」
「…うん」
そっと雪の頭を撫でる。
俺にとって雪の存在は何ものにも代え難いものになっていた。
それは雪にとっても同じなのだろうか?
「雪は――」
「え?」
「雪は俺と同じ大学に行くんだろ?」
「うん、そうだよ」
俺と雪は同じ大学に行くことが決まった。
“どうしても俺と一緒にいたい”
雪がそう言ったのが始まりだ。
雪がそう言ったように、俺も雪と一緒にいたい。
その気持ちは同じだ。
そして――2人で同じ大学を受けて合格した。
「…心配なの」
雪が唐突に言う。
「心配? なにが?」
「浩ちゃん…カッコイイし、優しいから――えっと、その…」
そういうことか。
こいつも馬鹿だな・・・
「格好いいかは自分ではわからないが、優しくするのは雪だけだ」
「…うん。わかってる」
口ではそう言うが、表情は曇っている。
「大丈夫だ、俺にはお前だけだ…」
雪を抱きしめる。
雪の身体は驚くほど小さくて華奢だ。
「こ、浩ちゃん…」
「心配するな」
「…うん」
小さな少女。
強いようで本当は弱い少女。
涙もろく寂しがり屋の少女。
そんな少女が――俺にとっては大切な存在。
「…雪」
俺は抱きしめる手に力を込める。
「く、苦しいよ〜」
「どこにもいくな」
「…浩ちゃん」
人のことは言えないな。
俺の方が雪と離れたくないのかもしれない。
俺の方が寂しがり屋なのかもしれない。
俺の方が弱いのかもしれない。
だけど――それでもいい。
雪が側にいてくれるなら、それでも・・・
暖かい風が吹く。
それは春の存在を象徴するかのようだった・・・
トップへ戻る 第2話へ