第2話 関係
第2話
『関係』
3月。
それは卒業シーズン。
「明後日は卒業式だね」
「もう――そんな時期か」
明後日は卒業式らしい。
最近は時間の経過が早く感じる・・・
「早いものだな」
「そうだね」
「雪と付き合い始めて3ヶ月か…」
「…うん」
返事をする雪に元気がない。
そうだよな――俺達は永い永い遠回りをしてきたんだな。
「ごめんな、俺が鈍感なばかりに…」
「ううん、そんなことないよ。浩ちゃんは気づいてくれたから…」
「…ありがとう」
なんとなく気恥ずかしい。
どうして俺はこんな会話をしているんだろう?
「そ、それよりさ」
「うん?」
「卒業式はどんな格好をしていくんだ?」
俺は話を逸らすことにした。
「うーん、考えてないよ」
「そうか。雪だったら――着グルミなんてどうだ?」
「きぐるみ?」
雪は“雪”が好きだから、雪だるまなんて面白いかも・・・
いやいや、ウサギも好きだから雪ウサギなんてのもいいかもな。
「――雪雪音」
「ゆきゆきね?」
「お前は“雪”が好きだから、雪の着グルミを着て“雪雪音”」
「………」
どうだ?
俺のギャグは最高だろう?
ふっふっふ、面白さのあまり声もでないらしい。
「どうだ?」
「浩ちゃん――全然おもしろくないよ」
「…なっ!?」
ガガーン!!
俺のギャグがウケないだと?
「お、面白くなかったか……ははは」
「笑いが乾いているよ?」
「き、気のせいだ……わははは」
なんたることだ?
俺の――俺のギャグが雪にウケないとは・・・
信じられないっ!
「卒業式かぁ〜、どんな服装にしようかな?」
「………」
「浩ちゃんはどんな服装がいいと思う?」
「…あ?」
ヤバイ、ヤバイ。
俺としたことが落ち込んでいたらしい・・・
この程度で俺は負けない。
「俺か? そうだな…」
雪に似合う服装。
正直に言ったら――何でも似合う。
俺はそう思っている。
だが、そんなことは恥ずかしくて言えない。
「着物――なんてどうだ?」
「着物? それならあるよ」
「なら決定」
「えっ? 決まっちゃったの?」
「うむ」
着物か・・・
雪の着物姿は――何年ぶりだろう?
ずいぶん前に見た記憶がある・・・
「雪の着物姿――可愛かったからな」
そう――可愛かった。
記憶に残っている雪の着物姿は可愛かった。
それが未だに忘れられない。
「こ、浩ちゃん…」
「え? あ、いや…」
俺としたことが口に出ていたらしい。
雪が顔を赤く染める。
「今のは言葉の文であってだな…」
「ふふ、ありがとう」
やれやれ、雪にはかなわないな。
「浩ちゃんにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「………」
「照れてるの?」
「なっ、そんなわけないだろう?」
俺は否定するが、雪にはバレバレだ。
「ホントかなぁ〜?」
「からかうんじゃないっ」
ぽこっ
俺は雪の頭を軽くこつく。
「あはは、ごめんね」
「ったく」
俺と雪は冗談を言い合う。
時には軽口をたたき――時には励ましたりする。
困ったら助け合い――落ち込んだら元気を与えあう。
俺と雪はそんな関係。
そして、それ以上の関係でもある。
“幼なじみ”を越えて“恋人”へ――
それはそれは永い道のりだった。
雪にとっては永かっただろう――
そして俺にとっても・・・
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