第3話 卒業
第3話
『卒業』
当日。
卒業式はスムーズに行われた。
「…卒業か」
俺は学校の向かいにある公園にいる。
卒業式は無事終わり、俺はなんともなしに此処にいる。
「………」
高校生活――いろんな事があったな。
俺はふと振り返る。
雪が文化祭で大失敗したこと
雪が体育祭で赤っ恥をかいたこと
雪が授業中に爆睡して怒られたこと
雪が階段で転んで怪我したこと
雪が寝坊して俺まで怒られたこと
そして俺が――
雪が大事な存在だと気づいたこと
雪と付き合い始めたこと
いろんな事があった。
だが、そのほとんどが雪のことだ。
「…そうだよな」
よく考えればすぐ気づくこと。
俺は最初から雪ばかり見ていた・・・
俺の方かもしれない・・・
雪が俺を見ていたのではなく――俺が雪を見ていたのだ。
ずっと・・・ずっと・・・
「浩ちゃ〜〜ん」
雪がこちらに向かって走ってくる。
「こらっ、そんな姿で走ったら…」
「え?――きゃふっ」
タッタッタ・・・ズサァ
雪は学校と公園を挟む道路でこけた。
「まったく」
そんな姿で走ったら転ぶだろうが・・・
「痛いよ〜」
ベソをかく雪。
しょうがないヤツだな・・・
「ほら、立てよ」
俺は雪のすぐ側まで行き、手を掴んで起き上がらせる。
「あ、ありがとう」
「ったく、そんな姿で走った危ないだろう?」
「うー、でも――浩ちゃんがこの格好がいいって」
そう、雪は俺が言った通りの服装をしてきた。
俺が着物がいいと言ったから、着物を着てきたのだ。
「まぁ、それはおいといて――公園にでも行くか?」
「うん」
道路に突っ立ているのもなんなので、俺達は公園に行くことにした。
「どうかな?」
雪はクルッと回転して聞いてきた。
自分の着物姿の感想を聞きたいんだろう。
「ああ、似合ってるぞ」
「あはは、浩ちゃんに褒められちゃった」
雪は自分の姿を見ながら喜ぶ。
雪の着物姿は可愛いを通り越し――綺麗だった。
俺は雪の着物姿にしばし見惚れる。
いつも可愛いと思っていたが、綺麗と思うのは初めてだ。
「どうしたの?」
「あ?」
いつのまにか雪が目の前にいた。
「ボーっとしちゃって」
「あ、いや……その」
雪を直視できない。
なんとなく恥ずかしい・・・
「…浩ちゃん」
「ゆ、雪?」
雪が抱きついてくる。
そして、その小さな身体を俺に委ねる。
「離れちゃやだよ」
小さな声で言う雪。
俺はそれを聞き逃さなかった。
「わかってる」
俺は小さな雪の背中に手をまわす。
そして――ギュッと抱きしめる。
「…うん」
雪は嬉しそうに返事をする。
「卒業だね」
「そうだな。俺達の高校生活も終わったな」
俺はそう答える。
だが――雪は首を横に振った。
「それもだけど、私たちの関係も……だよ」
「そうだったな」
雪の頭を撫でる。
なぜか今はそうしたかった。
「永かったね…」
「ああ、雪には待たせちまったな」
「そんなことないよ。それは私の方だよ…」
なんだ――バレていたのか。
「知っていたのか?」
「うん。浩ちゃんが私をずっと見ていたこと――知ってたよ」
「俺はそんな自分にも気づいていなかったんだな」
「でも、気づいたよね?」
「ああ、雪のおかげでな」
そう、雪のおかげで俺は気づいた。
全て気づいたのだ。
雪に対する想いを・・・
「私たちは始まったばかりだよ〜」
「…ああ」
そうだ――
俺と雪は始まったばかりだ。
2人の始まり。
誰もがこのとき、それを望んでいた。
だが――
運命は皮肉にも悲劇をもたらす。
その悲劇は――
2人の歯車を狂わすには十分すぎた・・・
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