第4話 発端
第4話
『発端』
公園。
学校の向かいにある公園に一組の男女がいる。
これから訪れる悲劇を知らずに・・・
「雪」
俺達は卒業式が終わったあと、まだ公園にいた。
「浩ちゃん――苦しいよ〜」
雪は悲鳴を上げるが、俺は離さない。
雪を見てると、ついついイジメたくなる。
「いやだ、俺は雪と離れたくない」
「そ、それは嬉しいけど……ちょっと苦しい〜」
俺は離さない。
すると雪は顔を赤らめながらこう言った。
「ほ、他の人が見てるよ〜」
周りを見てみるが誰1人いない。
「誰もいないぞ?」
「で、でも……恥ずかしいよ〜」
「雪は俺が嫌いか?」
俺は意地悪な質問をする。
こういう質問をされると雪は断ることができない。
「そんなことないよ…」
「じゃぁ、いいじゃないか?」
「で、でも〜」
雪は顔を通り越して、耳まで真っ赤にする。
――ちょっとイジメめすぎたか?
「あ、浩ちゃん」
「ん?」
雪が何か思いだしたように口を開く。
「忘れ物してきちゃった」
「忘れ物? 学校にか?」
「うん」
こんな日にも忘れ物とは――雪らしいな。
「わかった。行って来い」
俺は雪を解放する。
「…う、うん」
雪の返事に元気がない。
「どうした? 物足りなかったか?」
「そ、そんなこと…」
「戻ってきたら好きなだけしてやるから、さっさと行ってこい」
「うん、約束だよ?」
タッタッタッタ
雪はそれだけ言うと学校に向かって走っていった。
「ったく、走ったら危ないっていうのに…」
このとき青年は気づいていなかった。
今――少女を放したことが全ての発端だと・・・
タッタッタ・・・ベチッ
来たときと同じように雪は道路でこけた。
「お前ってヤツは…」
俺はため息を一つ吐き、雪の側に行く。
「大丈…!?」
俺が雪に声をかけようとしたとき、一台の車が雪に向かって走っているのが見えた。
「雪っ!」
俺は大きな声で雪を呼ぶ。
「いたた……な、なに?」
雪はのっそりと起きあがる。
ヤバイっ!!
俺の頭の中でその言葉が横切る。
「雪っ!」
俺は雪を呼びつつ車を見るが、車が止まる気配はない。
「雪っ!! 逃げろっ!!」
「浩ちゃん? どうし…」
雪も車の存在に気づく。
「どうしたっ!? 逃げろっ!」
「あ、あう……」
雪は車を見て固まってしまった。
くそっ! 間に合ってくれよっ!!
ダッ!
俺は大地を蹴って――雪の元に向かった。
「雪っ!」
ドンッ!
俺は雪を突き飛ばす。
「きゃっ!?」
雪が学校の方に軽く飛んでいく。
よし、何とか間に合った。
あとは俺が・・・
「!?」
俺の目の前には車があった。
見えたというよりは――あった。
ドガーンッ!!
少女の前で、青年は無惨にも車にはねられた。
「…こ、浩ちゃん?」
――ドサッ
軽く身体が浮いたあと、青年は地面に叩きつけられる。
「………浩…ちゃん?」
少女はヨロヨロと立ち上がり、青年の元に向かう。
「ウソ……だよね?」
「………」
青年は仰向けに倒れたまま――なにも答えない。
「そんな……浩ちゃん……」
少女は青年の前で膝をつく。
そして、青年の頬に手をあてる。
「返事してよ……浩ちゃん」
「………」
このとき少女は気づく。
青年に起こったこと――青年の今の状態。
「浩ちゃん!! しっかりして!! お願いだから目を開けてよっ!!」
少女は叫ぶ。
だが、青年には伝わらない。
「………」
「ぐすっ……浩ちゃん……私をひとりにしないで……」
少女の涙が青年の顔に落ちる。
「お願いだから……死なないで……」
涙を流す少女に手が伸びる。
「…浩ちゃん!?」
少女はその手を握る。
「ゆ、雪……泣くな」
「浩ちゃんっ! 死んじゃやだよ……お願いだから」
「馬鹿なヤツだな……俺が雪を残して死ぬわけ……ないだろ?」
「うんっ、うん」
少女は青年の手を強く握る。
「俺は……お前と…ずっと一緒…………だ」
青年の手から力が抜け、少女の手から離れる。
「浩ちゃん? どうしたの?」
「………」
少女の問いかけに返事はない。
「ウソだよね? 冗談だよね?」
「………」
「いつものように私をからかっているんだよね?」
「………」
「…ねぇ、なんとか言ってよ」
「………」
少女がなにを問いかけても、青年から返事が返ってくることはなかった。
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