プロローグ 冬の到来
プロローグ
『冬の到来』


冬。
もうすぐ冬がくる。

冬がくると雪が降り――積もる。
その上を人が歩く。

ザクザク

そんな音を立てながら雪の上を歩く。
歩るくと足跡が残る。
だけど、足跡は上から積もっていく雪の下敷きになる。

それは、あまりにも悲しい。
足跡が記憶なら――雪は時間。
時間により人の記憶は残っていく。
そして、積もっていく記憶は少しずつ消され――忘れていく。

あまりにも多すぎる記憶。
古い記憶は雪の上の足跡のように、次の雪によって埋まっていく。

俺の記憶もそうだ。
思い返すと、あいつはいつも俺の隣にいた。

――ふと、そんなことを考える。

「あたりまえ……か」

俺の記憶にあいつがいないことはない。
いつでもどこでもあいつはいた。
それが当たり前のように・・・

「――ちゃ〜ん」

「…ん?」

あいつが俺を呼ぶ。
いつのまにか、考え込んでいたようだ。

「どうした?」

「『どうした』じゃないよぉ〜! 一緒に帰るって約束したよ?」

頬を膨らませて怒る。
そんな仕草を見ると、まだまだお子さまだ。

「そうだったか?」

「そうだよ〜」

「…悪い」

俺が素直に謝ると――

「あ、い、いいよ〜。誰だって忘れることはあるし、私なんかいつも忘れっぱなしだし」

慌ててそんなこと言う。
そんな姿を見ると、これがこいつの良さなんだと思う。

「どうしたの? 私の顔を見つめて」

「いや、なんでもない」

「??」

首を傾げる。
その仕草は小動物のようだ。

「……いくぞ」

「あっ、待ってよ〜」

あいつが俺の後をついてくる。
もう、何年になるだろう?
わからないくらいの冬を迎えた。

おぼろげな記憶の中で、いつも俺の隣にいた少女。
そして鮮明な記憶の中でも俺の隣にいる少女。

もうすぐ冬がくる。
俺の“嫌い”な冬が・・・



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