第3話 雪らしさ
第3話
『雪らしさ』


12月も中頃。
もう秋の姿は跡形もなくなった。

「お腹空いたね〜」

「ん? そうなのか?」

下校中。
雪は突然そんなことを言いだした。

「うん。なんとなく……だけど」

「そうか――じゃぁ、あそこの屋台でタイヤキを買おう」

「え? い、いいよぉ。私…お金ないし」

「俺の奢りだ」

「そんな、私――い、いらないから…」

俺は雪の言葉を無視し、屋台に向かった。

トコトコトコ

そして2人分のタイヤキが入った袋を抱えて、雪のところに戻る。

「ほら、雪の分だ」

「あ、ありがとう」

雪は受け取るものの、食べようとしない。
それを見た俺は――

「俺が勝手にしたことだから気にするな。お前は黙って食えばいい」

「…うん!」

俺がそう言ってやると、雪は喜んでタイヤキにかぶりついた。
そんな姿を見てると、買ってよかったなと思う。

「あったかくて美味しいね」

「ああ」

2人で寒い空の中、タイヤキを食べる。
こんなのもいいかもな・・・
俺は心の中で呟く。

「おいしい♪ おいしい♪」

雪が嬉しそうに食べている。
そんな姿に、俺はしばし見惚れてしまった。

「――ん? 私の顔になにかついてる?」

「え? いや」

俺はいったいなにを・・・
雪がいつもの雪ではなく、とても魅力的に見えた。
――可愛いとさえ思った。

「変な浩ちゃん」

「………」

確認のため雪を見ると、それはいつもの雪だった。
さっきのは?

「…そうだよな」

気のせいに決まっている。
俺が雪に恋愛感情を抱くはずがない。
こいつは俺にとって“妹”みたいなものだから・・・

「浩ちゃんは食べないの? おいしいよ」

「ああ、わかった」

雪につられて、俺も食べることにした。

はぐはぐはぐ

「おいしいよぉ」

「ああ――ん?」

ふと雪を見ると、口元にタイヤキのあんこがついている。
俺はそれを指摘する。

「雪、口元にあんこがついてるぞ」

「え? ほんと?」

ゴシゴシと袖で拭くが、あんこは取れるどころかさらに広がった。
その上、袖で拭くから袖まで汚れる。

「なにやってんだよ。ほら、こっちに来い」

「…うん」

トテトテと雪は俺のところまで来る。
俺はポケットからハンカチを取りだして、雪の口元を拭ってやった。

「ん、――あ、ありがとう」

雪は照れているのか、顔を赤くする。

「なに赤くなってんだよ」

「う、うん。私……子供だよね」

「はぁ? なに言ってるんだ?」

「だって、浩ちゃんと同じ歳なのに……浩ちゃんのお世話になってばかりで」

「…雪」

それは違うぞ。
世間一般はそういう風にとらえるかもしれないが、俺はそうは思わない。

「雪は雪だろ?」

「…え?」

「お前がどんな奴でも――世話のかかる奴でも、俺にとって雪は雪だ」

「浩ちゃん…」

雪が潤んだ瞳で俺を見つめる。
お、俺はなんて恥ずかしいことを言ってるんだ。
今更ながら後悔する。

「だ、だから……世話がかかる、かからない関係なく、その――お前はお前なんだ」

恥ずかしさ故に、最後は自分でも言っている意味がわからなかった。
苦手なんだよな・・・
俺はポリポリと頭をかく。

「ありがとうっ、浩ちゃんだけだよ。そういうこと言ってくれるのは」

「し、知るか」

「ふふっ、そうなんだよ」

「………」

雪に背を向けるが、後ろの状況は何となくわかる。
雪は微笑みながら俺の背中を見つめているに違いない。
それがまた恥ずかしい。

「浩ちゃ〜ん、こっち向いてよ〜」

「………」

「照れちゃって、カワイイ〜☆」

人間、慣れないことはしない方がいいようだ。
俺はそんなことをブツブツと心の中で呟いた。




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