第5話 雨のふる日
第5話
『雨のふる日』


今日の午後は天気が崩れた。
それは天気予報が全く言ってなかった結果だった。

今日の授業が終わり、帰宅する。

「雨か…」

俺は下駄箱まで来て足止めをくらう。
傘がなければ帰れない。
雨はかなり強かった。

「浩ちゃ〜〜ん」

「ん? 雪か」

雪がこちらに駆け寄ってくる。

「どうした?」

「雨…、降ってるね」

「ああ」

2人で雨空をボーっと眺める。

「私、傘持ってないよ」

「俺は――ある」

「も、持ってるの?」

雪が驚きの声を上げる。
理由はわからなくはない――朝は雲一つない空だったからだ。
そんな中で、傘を持っているのは異常かもしれない。

「折り畳み傘だけどな。鞄の中に突っ込んだまま、出すのを忘れていたんだ」

「へぇー! それって、私の忘れん坊さんより凄いね!」

「………」

言い返せない。
確かに凄い事実かもしれない。
普通なら、毎日鞄を開けていたら取り出すだろう・・・

「それより、今日の雨は強いだろ?」

「うん」

「この傘は小さいから、あまり役に立たないんだ」

「そーなんだ」

雪は理解したように頷くが・・・
ちゃんと理解しているのか?
こういう状態の雪は意味が理解できていないことが多い。

「そんなわけだから、お前にやるよ」

「へ? 私がもらったら浩ちゃんは?」

「俺は――適当に濡れて帰るさっ」

俺の言葉に、雪が怒ったように言い返す。

「ダメだよっ! 雨に濡れたら風邪ひいちゃうかもしれないよっ!?」

「雪?」

「私やだよ! 浩ちゃんが私のせいで風邪ひいたら……私――私っ」

「お、おい」

雪が突然泣き出した。
ど、どうなっているんだ? 俺が悪いのか?
頼むから泣かないでくれ、周りの視線が・・・

「お、俺が悪かったから……泣かないでくれ」

「ぐすっ、浩ちゃん」

「じゃ、じゃぁ――こうしよう」

「ふぇ?」

雪は目に涙を溜ながら俺を見上げる。
そんな顔をしないでくれ・・・
俺は呟く。

「雪と一緒に帰る。それでいいだろ?」

「う、うん。嬉しいけど…」

「よしっ、決定!」

「でも、どうやって帰るの? 傘は一本しかないよ?」

た、確かに・・・傘は一本しかない。
となると――あれしかないよな。
この際、しかたない。

「この傘で帰るか」

「この…って、浩ちゃんの傘で?」

「そうだ。2人でこの傘に入って帰るんだ」

「い、いいの?」

雪が目を輝かせて聞いてくる。
そんなに嬉しいのか?

「あ、ああ」

「やったぁ! 嬉しいなぁ〜」

「はいはい、帰るぞ」

「うんっ!」

こうして、俺と雪は一本の傘で帰ることになった。

ザーーー

「雨……やまないね」

「そうだな」

俺は気づかれないように、雪の方に傘を傾ける。

「浩ちゃんは濡れてない?」

「ああ、俺は大丈夫だ。雪は大丈夫か?」

「うん、全然濡れてないよ」

「そうか」

そりゃそうだ。
お前の方に傘がほとんど傾いているからな。
おかげで俺の方は半分以上、ずぶ濡れだ。

「浩ちゃん――優しいね」

「…なにがだ?」

「浩ちゃんの肩……濡れてるよ」

「はは、それはない」

バレバレだが、一応とぼけておく。

「くすっ、昔から変わらないね」

「…なにが?」

「自分の状態に関係なく、私を気遣ってくれるところ」

「な、なにを…」

俺はそっぽを向く。
なんだか恥ずかしくなったからだ。

「まだトボケるの?」

「………」

「そんなに濡らして――くすっ」

「お前のためだからな」

「うん。ありがと〜」

なんだかんだ言っても、雪は俺のことをわかっている。
そんな雪のことも俺はわかっている。

「でも…」

「?」

「その優しさは――私にだけ?」

雪の質問に俺は考える。
雪に対してする事を他人にはしない。
それは言える――断言してもいい。
だけど、それは・・・

「ああ、雪だけだ」

「あはっ、嬉しい」

雪は喜びながら腕に抱きついてくる。

「こ、こらっ」

「この方が寒くなくていいよ」

「そ、それはそうだが…」

俺は言い返すことができなくなり、雪をくっつけるハメになった。

「あんまりくっつくなよ」

「ええ〜? だって、あったかいんだもん」

「ったく」

雪の突然の行動。
俺にはこいつのしたいことがわかる。
雪は自分が俺にくっつくことによって、雪の方に傘を傾ける必要をなくしたのだ。
ただ、その方法が腕に抱きつくこととは――なんとも雪らしい。

「また――こんな日があるといいな♪」

「俺は嫌だ」

「そうなの? 残念」

本当は嫌ではないのだが、それは言わないでおこう。
言うとややこしくなるからな。

雨の中を仲良く帰る2人。
その姿は幼なじみを越えた――恋人同士のようにも見えた。



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