第1話『その果てにある夢』
第1話
『その果てにある夢』
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それはたまに見る夢だった。
手を伸ばせば届くのに、あと少しが無理だった。
どんなに頑張っても、どれだけ努力しても届かない・・・。
腕が引きちぎれるほどに伸ばしても、たとえちぎれることがあっても届かない。
あと僅かが必ず届かなかった・・・、握ってもらえなかった。
たびたび繰り返す夢。
それはそれはたまに見る夢だ。
いつになっても色褪せることなく、鮮明に映し出される記憶。
誰もが忘れたくなるもの、だけど夢はそれを忘れさせてはくれない。
「……ゆ…め?」
夢が終わるとそこは現実。
限りなく広がり、続いていく時間という名の螺旋。
ただ、その終わりと始まりが気怠い。
「なんだか、からだが……重い」
「…ぅ」
原因はそれだった。
俺の体に手を回して抱きついている者、それは昨日連れて帰った少女。
気怠いのではなく、その重さだった。
「ふわぁ〜! そういやそうだった」
昨日のことを思い出し、事実を確認する。
少女を連れて帰った後、なにをやらせようにもダメだった。
何一つ理解できないようなので全て俺がした。
着替えをするときすら顔色を変えないことにはさすがに驚いた。
年頃の女が男に裸を見られたら普通は恥ずかしがるだろう・・・。
それが世間一般の価値観というものだ。
「どうでもいいや。おいっ、朝だぞ」
「……ぅ?」
軽く体を揺すると目を覚ました。
その目はどこか虚ろで、なにを映し出しているか読みとることができない。
ただ、その純粋な瞳には俺の顔が僅かに映し出されていることだけは確認できた。
「朝メシ……食うか?」
「………」
少女は何も答えず、俺に抱きつくだけだった。
その姿を見るだけで少し楽になれた気がする・・・。
本人はなにもわかっていないだろうが、それでもよかった。
欠片を探し彷徨い歩く生に広がる現(うつつ)、その中に迷い込んだ1匹の無垢な雛鳥。
現は雛鳥を呑み込むが、無垢なものはそれを知らない。
なにが現でなにが欠片かも見分けがつかず、それを無意識にくわえて帰る雛。
小さな無垢には意味が無く全てが流れるように去っていく。
答えは既に出ていた・・・、あの雨の日に・・・。
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