第2話『そこにあるのは確かな現実』
第2話
『そこにあるのは確かな現実』
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家についた俺はポケットから鍵を取り出す。
鍵を鍵穴に入れ、横に捻るとガチャッと軽い音を鳴らしてドアが開いた。
そして家に中に入ると、そこには朝と同じ光景があった。
「………ふぅ」
「………」
キッチンのテーブルに朝の姿のまま座っている少女。
なにひとつ変わることなく何時間も固まり続けるもの・・・。
それはあまりにも虚しかった。
「なんだ…、風邪薬飲んでないのか」
「………」
「飲んでいろって言っただろう?」
「………」
もちろん何も答えないのはわかっている。
だけど、なにか言っておきたい気分だった・・・そうしないと今の空気に耐えられなかった。
それに少女の体調が気にかかっているのも確か。
「飲まないのか? 風邪をひいてからでは遅いぞ?」
「………」
「…ったく」
ひとつ毒づき、水と薬を口に含むと半ば強引に口づけをする。
俺の口を通して少女の喉を進み、そのまま中に吸収されていった。
別に他意があってしたわけではないのだが、少女の唇はとても柔らかかった・・・。
その柔らかさに男としての性(さが)が疼きはじめる。
「………」
「…ふぅ」
「……ケホッ…ケホッ」
「ご、ごめん。大丈夫か?」
少し咽せる少女に俺の性はどこかに行ってしまった。
心配で顔を覗き込むと、心なしか頬が赤くなっているような気がした。
そんな少女の変化に少し照れてしまう自分に気づく。
なんだか不思議な気分だった・・・。
「悪かった、無理矢理してしまって…」
「……?」
少女は意味がわかっていないように、無垢な瞳を俺に向ける。
その瞳が限りなく似ていた・・・透き通るような白に浮かぶ黒真珠の玉。
全てを見透かしたような輝きが眩しかった。
「キス……していいか?」
「………?」
「……いいか?」
小動物のように首を小さく傾ける姿があまりにも愛おしく感じた。
別にあいつに似ているだけじゃない・・・。
少女がとても魅力的に思えた・・・これは夢だろうか?
そう思うくらい全てが流れすぎていた。
「……ぁ」
「その……いいか?」
3度目の問いに少女が微かに頷いた。
それは俺の見間違いなのかもしれない、そう思いたかっただけなのかもしれない。
そんな考えが頭の中を巡る中、理性は既に行動していた・・・。
「……ん」
少女の後頭部に手を回すと、抱えるように持ちながら自分の顔を近づけた。
そして優しく触れ合うと少女はゆっくりと瞼を閉じていく・・・。
それにつられるように俺もゆっくりと閉じた。
なにかを振り切るように小さな少女の体を抱きしめる。
抵抗をしないことを後目に強く強く抱きしめる・・・壊れてしまうほど強く。
恐怖を感じているわけではない、罪を恐れているわけではない。
だが、俺の体は少し震える。
見えない恐怖、見えない未来、消えない過去。
失いたくない・・・。
どれほど想おうが・・・。
どんなに努力をしようが・・・。
死ぬほどあがこうが・・・。
そこには過ぎたものと、目の前にある確かな・・・現実・・・。
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