第10話『異愛』
第10話
『異愛』



外は雨が降っていた。
雨音に耳を澄ませながら、雅人はこみ上げてくる快感に身をゆだねていた。
「んぷ……んん…」
「あ、茜…。そんなにはやくしたら…」
雅人のモノを頬張っている茜はそれを口から解放すると、悪戯っ子の様な目を向けて聞いた。
「出そう?」
「あ、ああ…」
「ふふっ、いつものように飲んであげるね」
再び雅人のモノを口に含むと、茜は唾液を絡ませ、絶頂に導いた。
「あ、茜っ!」
ドクンッ!――雅人のモノが大きく跳ね、白濁液を吐き出す。
茜は苦しそうにしながらも喉を鳴らして全ての液を飲み干した。
「…ふぅ」
「はぁ…はぁ…」
「全部飲んだよ。気持ちよかった?」
「あ、ああ…」
絶頂さめやらぬ雅人は、何度も息をついた。
そんな雅人を見て、茜はなにかしたそうにするが、途中でそれを止めてしまう。
「茜?どうした?」
「キス…、したいなって思って」
「そんなこと――」
雅人は遠慮なしに顔を寄せると、茜はそれを制止した。
「茜?」
「私、お兄ちゃんのを飲んだ後だよ?そんな私とキスをするなんて嫌でしょ?」
「…あ、えっと」
茜が遠慮する理由を理解すると、さすがの雅人も戸惑った。
――が、次の瞬間にはそんなことは気にせず、雅人は強引に茜の唇を奪った。
「…んむぅ!?」
「………」
「ん…」
茜の言ったとおり、雅人はやめとけばよかったと少し後悔した。
口の中には何とも言えない味が広がり、いつもの茜の味がかき消されていた。
「…ぷはぁ」
「………」
満足そうな笑みを浮かべる茜。それにくらべて雅人の顔色は悪かった。
「無理してキスしてくれなくてもよかったんだよ?」
「そんなことはないが…。形容のし難い味だ…」
「あはは…。私も初めてのときはきつかったなぁ」
笑顔で答える茜の姿に、雅人は少し罪悪感に苛まれる。
「こんなものをずっと飲んでもらっていたなんて、茜に悪いと思ってる」
「な、なに言ってるのよ?私が好きでしていることなんだから」
「だが、無理しているだろう?」
「………」
茜は顔を反らすと、視線を落とした。そして、ぽつりと呟く。
「私より、お兄ちゃんの方に無理させているんじゃないかな?」
「…茜?」
「体を許してないから、こんな事しかしてあげられなくて。それでもお兄ちゃんは気持ちいいって言ってくれるけど、本当は私を抱きたいのかなって」
「………」
「男の人は体を許さないと満足しないって聞いたし…」
だから誰からだよ――と、雅人は心の中で呟く。
雅人がそんなことを考えていると、不意に茜の瞳から涙が零れた。
「お兄ちゃんのこと好きだけど、こんなことしかしてあげられなくて…。ちょっと自分が恥ずかしい…」
「あのな、茜…」
茜を自分の胸に抱き寄せると、雅人は諭すように言った。
「男と女の関係って、そんなことだけじゃない。確かに茜の言うとおり、体の繋がりも大切だ」
「…そうだよね」
「だが、それよりももっと大事なのは心だ。これがないと、何度体を重ねても意味がない。裏を返せば、心さえあればどんな逆境にも耐えられると言うこと」
「私とお兄ちゃんにはあるかな?」
「あるさ、心以外にも血のつながりがな…」
雅人の言葉は、大きな意味を持ち、ふたりの心に響いた。

――トントン。
麗らかな日曜日。
窓から射し込む光にまぶしそうにしながら、雅人は微睡んでいた。
その中で響く心地よい音、ドアをノックする音ではなく、何となく懐かしい音。
「ふふふ〜ん♪」
うっすらと目を開けると、台所で料理をするエプロン姿の茜が目に入る。
雅人はボリボリと髪をかきながら起きあがった。
「ふふ〜ん♪……あっ、起きた?」
「おはよう、茜」
「お兄ちゃん、おはようございます」
そういえば、茜は昨日、泊まっていったんだっけ?――雅人はそれを思い出すと、大きな欠伸をした。
「顔を洗ってシャキッとしてきてね」
「ああ…」
寝ぼけた目をこすりながら洗面台へと向かう。
そしておもむろに歯ブラシを取り出すと歯磨き粉を乗せ、口にくわえた。
「お兄ちゃんっ!」
「…ん?」
「朝ご飯食べる前に歯を磨くの?できれば、後の方がいいと思うよ」
「………」
茜に言われて初めて歯を磨いていることに気づく雅人。
本人は顔を洗っているつもりだったが、端から見ると違うらしい。
「食後の方が効果的だって、テレビでも言ってたよ?」
「ああ、茜が正しい。顔を洗おうとしてボケたみたいだ」
雅人の言葉に茜は吹き出すと、朝食の準備に戻った。
――なんとか雅人の洗顔も終わり、ふたりで朝食をとることにした。
「このハムエッグ、焼き具合がいい感じだ」
「お兄ちゃんの好みに合わせて作ってみたんだけど、合ったみたいだね」
「いい奥さんになれるぞ?」
雅人の言葉に茜の表情が陰った。
「お兄ちゃんの奥さんになれると……いいな…」
茜は精一杯の笑顔で答えるが、最後の方は涙声になっていた。
「あかね…」
「ご、ごめんね。朝からこんな姿を見せて…」
「俺が不謹慎だった。許してくれ」
うまく言葉を出せない茜は大きく首を振った。
「俺と茜の道はいつか別れるだろう。だけど、それまでは妹として、恋人として俺の側にいてくれるか?」
「…お兄ちゃん」
茜は目尻の涙を指ですくうと、ニッコリと微笑んだ。
「こんな私でよければ…」
「ああ。俺は茜の笑顔が好きだ。だから、俺の側にいる間はできるかぎり笑っていてくれ」
「努力します」
「そ、それとな。もう、あのことは止めにしよう」
雅人がそういうと、茜はショックを受けたように崩れた。
「や、やっぱり満足してなかったんだね。私が下手だから、もうしなくていいだ…」
「そういうわけじゃない」
「じゃぁ、どうして?――まさか、飲むようなはしたない女の子は嫌いなの?そうなんだねっ?」
「だから…」
「今度からは飲まないからっ!手の上に出して見せたらいいんだねっ!?そっちの方が萌えるんだね?」
何となく話がずれていることに雅人は首を捻った。
だが、肝心の茜は真剣に続ける。
「お兄ちゃんはそんな人じゃないよね、うん。わかった!今度からは顔謝させてあげる。それなら満足してくれるよね?顔謝って嫌がる人が多いって聞いたことあるけど、私はぜんぜん構わないからね」
「お前、ふざけているだろう?」
「…ごめんなさい」
茜は小さく頭を下げると、ぺろっと舌を出した。
「でもね、私はお兄ちゃんにしてあげたい。喜んでほしいから」
「気持ちは嬉しいが…」
「私、そんなに下手だった?頑張って上手になるから、だから…」
「…ばかっ」
雅人は茜の頭に手を伸ばすと、少し強めに撫でた。
「下手だったら、あんなにすぐ出るわけないだろう?」
「…うん。だったら、なおさらしてあげたいな。お兄ちゃんの気持ちよさそうな顔、見たいから」
屈託のない笑みをこぼす茜に雅人は断り切れなかった。
「わかった。可愛い妹の頼みは断らない主義だからな」
「ありがとっ!それならもう一つ頼み事」
「なんだ?」
「今日はお天気もいいし、買い物に付き合ってくれる?」
外の天気にも負けないくらいの笑顔に、雅人は微笑んで答えた。




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