第17話『前兆』
第17話
『前兆』
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夏休みも終わり、いつものように大学が始まる。
夏の出来事で拗れていた関係も少しずつ収まる兆しが見えた。
恭二と天宮は真剣に話し合いをし、なんとか仲を戻した。――が、このふたりについての心配は誰もしてなかった。
雅人と唯子は一歩前進した形で毎日を過ごしている。
ただ、茜だけが思い詰めたような顔で日々を過ごし、雅人のアパートにもあまり行かなくなった。
「――どうしたんですか?」
いつもの木陰で空を眺めている雅人に唯子が声をかけた。
「なにがだ?」
「なんだか浮かない顔をしてましたから…」
「ああ、ちょっと茜が心配でな…」
雅人はため息をついた。
「海に行って以来、ほとんど姿を見てないんだ」
「…私のせいでしょうか?」
怖ず怖ずと尋ねる唯子に雅人は首を振った。
「違うみたいだ。なにか他の理由だと思う…」
「心当たりでも?」
「ないことはない…」
ふっと目を閉じる雅人を唯子は寂しい眼差しで見つめる。
「私には話せないことなんですね?」
「………」
「いいんです。全てを信頼されてるほど自惚れてませんから」
「悪い。これは兄妹の問題なんだ」
雅人は俯く唯子に顔を寄せると、そっとキスをした。
「高原さん?」
「そんな顔をしないでくれ。これは茜のためにも、言うことはできないんだ」
「ご、ごめんなさい!私、なんだか嫌な女の子ですね…」
しゅんと俯く唯子の肩を、雅人は抱き寄せた。
「そんなことない。君には笑っていてほしい」
「…はい」
笑顔を向ける唯子に雅人は満足すると、再び唇を重ねた。
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