第4章−2『ヴァーミアに訪れる夜』
第4章−2
『ヴァーミアに訪れる夜』



「ナツキ様っ?本当に行かれるんですか?」
「ああ、自分の落とし前はつけるつもりだ」
「自警団に頼んだ方が宜しいんじゃないでしょうか?」
「奴らはあてにならない。自分の腕の方が頼りになる…」
「そ、それはそうですけど…」
 リアラはなんとかナツキを説得しようとするが、“ブレイドマスター”の意地があるナツキにとってリアラの言葉を聞くわけにはいかなかった。理由はそれだけではない、ナツキにとって大事なものである代物を他人の手に任せるのが許せないのである。幸い、相手の狙いは自分だとわかっているだけにナツキの行動は早かった。盗みにあった後、2日ほど考えたが、やはり取り返そうと決めたが最後。今に至るのである。
「夜も遅いですし、危険ですよ?」
「相手も警戒して昼間は動かないだろう。絶好の機会だ」
 宿の入り口で支度をしているナツキにリアラは最後まで説得を続けた。だが、その努力は無駄に終わる。
「お前は寝ていろ。朝までには帰る」
「ナツキ様…」
「行かせてあげなさいよ」
 そう言って現れたのはアリシアだった。その後ろには例のごとくキルクスの姿もある。
 ナツキはふたりに気づくとリアラのことを頼んだ。
「心配はないと思うけど、無理しないでね」
「わかってる」
「僕が見る限り相手はなかなかの手練れだね。油断は禁物だよ?なんなら僕もついていってあげようか?」
「その必要はない」
「…だろうね」
 キルクスはやれやれと首を振った。ただひとり、リアラだけは心配そうに声をかける。
「あの、ナツキ様…」
「心配するな。無事に帰ってくる――俺の強さは知っているだろう?」
「……そうですけど」
「強さを過信するもの、これ強さに溺れる――なんつって!」
 ドスッ!――アリシアの蹴りがキルクスの鳩尾に見事決まった。その結果、キルクスは崩れ落ちた。
「このバカはほっといて、ナツキなら心配ないって。リアラちゃんは安心して待っていればいいのよ」
「………」
 リアラは釈然としない思いだったが、ここは素直に見送るしかなかった。
「無理しないでください。なにかあったらすぐに帰ってきてください」
「リアラは心配性だな。わかった、約束する」
 用意を終えたナツキは念のため大剣を背負うと、宿のドアを開けた。
 ふとなにかを思い立ったアリシアはナツキを呼び止めた。
「…ん?」
「念のため、魔法を授けてあげる」
 アリシアはナツキの手を掴むと静かに目をつぶった。高度の力を持つ“ヒーリング”は自分の意志で相手に魔法を伝えることができるのである。だが、相手が少しでも“資質”が無いと普通は無理なのだが、ナツキには少なからずあるらしく、低級なものなら教えることができるのである。
「……はい。これでいいわよ」
「これは?」
「物質転移の魔法。低級だからイマイチ使いづらいけど、念じてマーキングしたものを一定の距離の範囲なら自由に移動させることができるの。ただし一個しかマーキングできないけどね」
「一定の範囲ってどれぐらいだ?」
「そうねぇ、ナツキの力なら50メートルくらいかしら?」
「十分だ。生物にはマーキングできないのか?」
「残念だけど無理ね。もしかしてリアラちゃんにするつもりだったの?」
 図星だったのか、ナツキはバツが悪そうに頭をかいた。そんな姿にアリシアは口に手を添えて笑った。
「ふふふっ、それなら物質転移より空間転移じゃないと無理ね」
「そんな高度の魔法…。俺には無理って事か」
 ナツキは諦めたように言うと宿を出た。リアラとアリシアはその後ろ姿を見送る。そして完全に音が消えたとき、リアラのすすり泣く声が響いた。
「リアラちゃん?」
「私、ナツキ様の迷惑にしかなってない。お役になんか立てないのかな…?」
「…ふぅ。リアラちゃんは知らないかもしれないけど、今のナツキは初めてあったときより生き生きとしているわ。それはもう、はじめは落ち着かない態度でなにを見ても驚いて、慣れてきたと思ったら今度は物思いに耽ったように寂しそうな瞳をするの。そんなナツキに私は惹かれたんだけどね、ある日、黙って出ていっちゃってねぇ。それはもう心配したものよ」
「アリシアさん…」
 過去を振り返るアリシアをリアラは不思議な眼差しで見つめた。
 アリシアさん、やっぱり今でもナツキ様のことが好きなんだ。ナツキ様はどうしてアリシアさんを選ばなかったのだろう?ナツキ様の過去、私はそれをなにひとつ知らないんだ・・・。
「ナツキの過去。私はそれを知ることができなかったけど、リアラちゃんならできそうね」
「ア、アリシアさんができなかったことが、私なんかができるはずはありませんっ」
「そんなに謙遜しない。あなたならできるわ」
 真剣な眼差しで言うアリシアの言葉には確かな自信が混じっていた。

 “ヴァーミア”の町中をナツキはひとりで歩いた。昼間は人で賑わう大通りも今では誰一人無く、ナツキの足音が不気味に響いた。
 今日の夜空は薄気味悪く、雲に覆われ星ひとつ見えない。夜は灯りが無く、闇が全てを飲み込みそうになるのではないかと勘違いしそうな夜だった。
「夜になると光が全て無くなるなんて、やはり不便な世界だな」
 この世界の灯りは全て魔法で供給されており、無駄に消費しないように夜になると全ての回路が切断されるのである。それは不思議な構造で、目に見える管や線はなにひとつ無く、空間を繋ぐ回路があるらしくそれを切断するのである。ナツキにとっては未だに理解しがたい理屈だった。
「月も出てないとなると、まさに暗闇だな。これでも明かり代わりにするか」
 ナツキはポケットから一枚の紙を取り出すと手をかざした。すると、その紙がポゥッと青白く光り、文字を浮かび上がらせた。これはナツキが昼間拾った指名手配の紙である。そこには“身長160cm、性別は女性で20歳。服装は主に男のような格好をし、金を盗むわけでなく高価な貴金属などを狙うのが特徴”と書かれていた。それに顔写真も載せてあった。
「やっこさん。有名人なんだな」
 それは紛れもなくナツキからブレスレットを盗んだ犯人だった。
 指名手配されているにもかかわらず、あんな昼間に“ブレイドマスター”である俺から盗もうとするなんて大した奴だ。まぁ、盗られた俺も俺だけどな。
 ナツキはあてもなく町中を歩いた。どこに行けば会えるとはわからないので、とりあえず相手から自分を見つけさそうと考えたのである。だが、その思考は的を外れ、ナツキの方が先に相手を見つけてしまった。女の子は逃げるように建物と建物の間に消えていった。
「千載一遇のチャンスってわけだ。この機会を逃すわけにはいかないな」
 ナツキは足音を消して女の子が消えた場所へと近づいていった。
 そこは僅かな夜空の光も通さず、暗黒といえるにふさわしい場所だった。ナツキは慎重に歩み寄った。どうやらここは袋小路になっており、先は行き止まりになっていた。人間がふたりぐらいしか通れない幅の通路に足を踏み込む。人の気配はしない。だが、かすかな息は聞こえる。ナツキほどの腕ならば気配は読めなくても僅かな音を聞き取ることができるのである。その通路の行き止まりには確かに人がいる、そう確信してナツキは近づいていった。
「…だれ?」
 相手もこちらに気づいたのだろう。伊達に気配を消すだけはある、足音を立てずに近づくナツキの存在を見つけたのである。ナツキは隠しても仕方ないと思い、堂々と姿を現した。
「…!“ブレイドマスター”!?」
「そうだ。盗られたものを取り返しにきた」
「あ、あれは……もう金に換えてしまったよ…」
 女の子の言葉に微かな動揺が含まれていた。それに気づいたナツキは嘘をついているとわかったが、ここはあえて話を合わすことにした。
「そうか、ならどうしてくれよう?」
「私を殺すか?それとも強姦するか?」
「どちらも趣味じゃないな。女の子に手を出す気はない」
「お、女だからってなめないでよっ!」
 女の子はズボンから2本のナイフを取り出すと両手で構え、ナツキに向かって走った。
 その細い腕からは信じられないスピードで繰り出されるナイフ。だが、ナツキはそれをいとも簡単に避けると、右手で女の子の手を弾く。その反動で乾いた地面にナイフが落ちる、それに驚いた女の子にお構いなしにナツキは左手で首を掴むとそのまま通路の奧に叩きつけた。
「ぐぅっ…」
 壁に叩きつけられた反動で残った手のナイフも地面に転がった。
「く、苦しい…」
「俺を殺すつもりなら全力で来い!そんな半端な力では無駄死にするだけだ」
「ま、まだ……!」
 女の子は服の袖に隠していたナイフを取り出すと、残った力を振り絞って自分の首を掴む腕に振り上げた。
 ドス!ドス!――女の子のナイフがナツキの腕に食い込む。だが、ナツキは少し顔を歪めるだけでその手を離すことはなかった。すると、女の子の力の方が先になくなりナイフを落としてしまった。
「詰めが甘いな」
「ば、ばけも…の……」
 女の子の言葉にナツキの目つきが変わった。それを見た女の子は自分が殺されると思った瞬間、どすんと自分の体が地面に崩れ落ちるのを感じた。そして今までの苦しさに咳き込んだ。
「げほっ……げほっ……」
「悪いことは言わない。盗みなんてやめて普通に生きろ」
「……?」
「お前には盗みなんて似合わない」
 さっきまでとはうって変わって優しい眼差しを向けるナツキに女の子は動揺した。
 こ、この人なに?私を殺そうとしていたのに、優しい言葉をかけてくるだなんて。なにを考えているの?――でも、この瞳は嘘をついてない瞳だわ。私にはわかる。本気で私のことを心配してる。
「あ、あなた何者?」
「ただの“ブレイド”さ」
「………」
「後で盗ったものは返してくれ。俺はしばらくこの町の宿にいるからな」
 ナツキは女の子の背を向けて去ろうとしたが、すぐさま引き返してくると女の子に掴みかかった。
「きゃっ、な、なに?」
「服を脱げ!」
「え?あっ、引っ張らないでっ!!」
 突然のことで訳が分からず、慌てふためく女の子の口を手で塞ぐとナツキは無理矢理衣類を脱がした。
「んんー!?」
「しっ!声が聞こえるぞっ!」
「………」
 女の子は静かに頷いた。これ以上抵抗しても勝ち目がない、そう悟った女の子は強姦されるのだと思い、自然と目から涙が零れた。
 ナツキは女の子の服を剥ぎ取ったことで目の前に肉付きが良い裸体同然(下着は上はなく下だけ着用)を晒すことになってしまった。場違いな状況を理解しながらも少し照れながらナツキは女の子の服を持って通路を出ていった。
「これはこれは。こんな時間に出歩くのは危険ですよ?私共も今、指名手配中の“ハンター”を追いかけているところなんです」
「“ハンター”?もしかして指名手配されている女か?」
 女の子を追いかけてきたであろう2人組の自警団にナツキは探るように尋ねた。自警団はそんなことを知らずに親切に受け答えをした。
「はい。でも、女だと思って油断したらダメです。ナイフさばきはプロ並みですから」
「あなたも見たところ“ブレイド”のようですが、どうかお気をつけください」
「ああ、わかった」
 ナツキはマントの中に隠し持った服にマーキングをし、ふたりに気づかれないように服を動かした。そしてある程度物陰まで動かしたときに何気なく呟いた。
「ん?あそこの物陰に見えるのは…?」
「どうかしましたか?」
 ナツキが指さす方向にふたりが見ると、そこには薄暗い闇の中に女の子の服とズボンが逃げるように去っていった。それを見たひとりが大きな声で叫ぶと、急いでその後を追いかけていった。
「それでは私共は奴を追いかけますので、あなたも気をつけてお帰りください」
「ああ、ご苦労さん」
 そして残ったひとりも後を追うように走っていった。
 ことの結末を見送ったナツキはいつの間にか後ろにいる女の子に振り返らずに声をかけた。
「もう忘れたのか?俺を殺すなら全力で来い」
 ナツキの言葉に女の子の手からナイフが転がり落ちた。その刃にはナツキの背中を刺した証である血の滴が付着していた。
「あ、あぅ……私、殺されるの?」
「………」
「お、お願い!私の体を好きにしていいから、なんでもするから命だけは助けて…」
 女の子は腰が抜けたように地面に尻餅をつき、泣きながら哀願した。
 ナツキは振り返ると、自分のマントを脱いで女のこの上からスポッリとかぶせた。マントの中央からは女の子の頭だけが飛び出し、さながら人間てるてる坊主である。
「大丈夫だ。なにもしない」
「……ほ、ほんとう?」
「嘘を言ってどうする。そのかわり、俺のブレスレットは返してくれ」
「……うん」
 ナツキの言葉に女の子は小さく頷いた。ナツキはそれを確認すると立ち去ろうとしたが、ズボンを引っ張られた。振り返ると女の子がポロポロと涙を零して掴んでいた。
「ごめんなさい。あなたは私を助けてくれたのに、それなのに私はあなたを傷つけてしまった…」
「別に気にしてない」
「あなたが良くても私が良くない…」
 困ったような頭をかくとナツキは女の子の前に屈み込み、両肩に手を置いた。
「許してくれとは言わないけど、私なんかでよかったら好きにしてください…」
 女の子はナツキの手を軽く払いのけると、マントのホックを外してその綺麗な裸体を差し出した。これにはさすがのナツキも止めようとしたが、女の子の方は待ってくれなかった。
「あ、あの…」
「とりあえず落ち着いて。話はそれからだ」
 ナツキはとりあえず女の子にマントを羽織らせようと前屈みになった瞬間、唇に柔らかい感触が押しつけられた。それは他ならぬ女の子の唇。ナツキの胸に両手を当てる女の子の手から震えが伝わり、愛しさがこみ上げてきたナツキは震える体を優しく抱きしめながらキスを続けた。
「……んぅ」
「………」
「ん……んぅぅ…」
「………」
「……はぁ、なんだか体がフワフワします」
 キスを終えたふたりはゆっくり離れると女の子の方は刺激が強かったせいか、体の力が抜けてしまった。それをすぐさまナツキは抱き留めると、互いに視線が重なる。女の子の瞳は虚ろでその中にナツキが映っているのかは疑問だった。
「キスがこんなに気持ちいいなんて知りませんでした…」
「………」
「私、経験がないので優しくしてほしいです…」
「………」
「いえ、あなたが強くしたいのならしてくれても構いません。気にしないでください…」
 ナツキは黙って離れると女の子にマントを羽織らせた。ナツキの行動に女の子は意味が分からないようで不安の声を上げた。
「な、なにか気に障りましたか?」
「無理をするな。俺はそんなことを望んでいない」
「………」
「お前が礼というなら、キスだけで十分だ」
 ナツキは懐からコインを取り出すと数枚を服の代金として女の子に渡した。その行動に女の子はなにか言ったようだが、ナツキは耳を傾けずその場を去った。

 ナツキが宿に戻ると一階のロビーのところでリアラがうたた寝をしていた。アリシアとキルクスの姿はなく、傷の手当てをしてもらおうと思っていたナツキは出鼻をくじかれた。仕方ないと諦めたナツキはシャツを脱ぐとリアラの上にそっとかけた。
「ぅん……ナツキ様?」
 寝ぼけたように目を開けたリアラだが、目の前にナツキがいるのを確認すると眠気もすっかり飛んでいった。
「悪い。起こしてしまった」
「そ、そんなことはいいんです。それよりお怪我は――ああ!」
 腕に何ヶ所か刺し傷を見つけるとリアラは大げさに悲鳴を上げた。ナツキは大丈夫だと言うが、素直に聞くリアラではなかった。
「こんなに怪我をなさって…、無理しないで帰ってきてくださればよかったのに…」
「その、すまない」
「私、魔法なんて使えないし、クスリもないし――どうしたらいいの!?」
 あたふたと慌てた後、どうすることもできないと感じたリアラの目から涙が零れた。
「これぐらいの怪我、どうってことない」
「ぐすっ…。ナツキ様のお役に立てないことが悔しいんです…」
「リアラ…」
「ナツキ様のお側にいる資格なんてないんです…」
 泣きながら走り去ろうとするリアラをナツキは後ろから抱き留めた。
「ナツキ様…」
「何度も言わせるな、俺の側にいろ」
「…はい。ありがとうございます」
 ギュッと強く抱きしめるナツキの手にリアラは小さな手を重ねた。

 翌日。一行は昼食を外で食べようと宿を出たところ、例の女の子が意外な格好で立っていた。
「あのマント、ナツキ様のじゃないですか?」
「そうだな」
 女の子はマントを脱ぐとナツキに投げつけた。ナツキはそれを軽やかに受け取ると隣に立っているリアラにそっとかぶせた。マントを脱いだ女の子はというと、可愛らしいワンピースを着ている。その姿は誰が見ても普通の女の子で、“ハンター”の面影はなかった。
「えっと、約束だから持ってきた…」
 女の子からブレスレットを投げられると、ナツキはタイミングよく腕にはめた。
「ブラボー!さすがはナツキ君」
「アンタは黙ってなさい」
 アリシアはキルクスの脇腹を肘でつついた。キルクスもその場の空気を読んだのか、それ以上くだらないことを言うことはなかった。
「確かに返してもらった」
「約束だから。それにしても“ブレイドマスター”はとんでもない人だね、こんなに凄い人なんて思わなかったわ。盗られたものを自分で取り返すなんて“ブレイド”のすることじゃないよ」
「そうだな。だが、自分の落とし前は自分でつける性格でね」
「そうらしいね。嫌というほど知らされたわ。あのときは殺されるかと思った」
 穏便じゃない言葉にリアラはナツキの顔を見上げた。気づいたナツキは無言でリアラの頭の上に手を乗せる。
「私ね、優しい人って好きよ。強い人も大好き」
「贅沢な奴だな。それより“ハンター”から手を引いたのか?」
「まさかっ。目的がある以上、やめるわけにはいかないわ」
「なにを狙っているか知らないが、あまり首を突っ込むと今度は命が無いかもしれないぞ」
「そうね、今度ばかりは相手が悪いかもしれないわね」
「だったら――」
 女の子は指を伸ばしてナツキの言葉を遮った。その顔は悪戯っぽく微笑んでいる。
「“ブレイドマスター”――あなたのハートを盗ませてもらいます」
「え…?」
「私のファーストキスはそんなに安いものじゃないんですからねっ!」
「なっ…!?」
「…ナツキ様っ!?どういうことですかっ?」
 リアラが驚きの声を上げる。ナツキもまた驚きを隠せなかった。アリシアは頭を抱えながらどこかに行き、キルクスは事を最後まで見たかったのだろうがアリシアに引っ張られていった。
「あなたは言いましたよね?盗られたものは自分で取り返すって」
「まぁな…」
「私の心を奪った以上、私も奪い返すまでですっ!覚えておいてくださいねっ!!」
「どういうことなんですかっ、ナツキ様っ!」
 リアラに腕をブンブン振り回され、ナツキはどうしていいかわからなかった。“ブレイドマスター”危うしである。そんな彼に誰も助け船を出してくれなかった。それはそうである、出すはずのふたりはこの近くにはいないのである。
「それと、私の名前は“ミリィ=ウォート”――忘れないでねっ!」
 ミリィは去り際に投げキッスをしながらウインクを残していった。
 ついでにその後の余計なゴタゴタも一緒に残していったのを彼女は知らない・・・。





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