第1話『名は体を表す』
第1話
『名は体を表す』


ブロロロロロロロロロ・・・

バスに揺られること4時間。

ガタンゴトンガタンゴトン・・・

電車に揺られること3時間。

………

「つ、着いた…」

俺はやっとこさ目的地に着いた。
あまりにも長い道のりで、途中の記憶が無いのが少し不安だが、この際は気にしないでおこう。
終わりよければ全て良し、結果オーライである。

「それにしても…、誰もいないなぁ〜」

人混みが嫌なので、旅行シーズンの8月中は避け、少し落ち着いた頃の9月末を選んだのだが。

「静かでいっか」

場所は山より海がよかったので海辺にした。
誰もいない海をひとりでボーっと眺めながら黄昏るのはなかなか乙なもの。
だが、海水浴シーズンが終わっているので、水着ギャル(死語)を見られないのが残念だ。

「っと、バカなことを考えてないで予約してある旅館を探さなくては…」

ここに来るまでにかなり時間が掛かってしまったので、急いで旅館に行くことにした。

………

「………」

夕刻。

旅館前に着いた俺は無言で立ちつくした。

「“名は体を表す”とは正にこのことだな」

思わず呟いてしまったが、それはそれで仕方ない。
ちょっとボロイ感じの建物に、誰も客がいないんだろうかと思うほど静かすぎる周囲。

それに合わせたように旅館の名前が『閑古鳥』

「鳴いているよなぁ」

カァ〜〜〜カァ〜〜〜!

俺の言葉を悟ったのか、カラスも鳴いた。

「でもまぁ、うるさいのが嫌いな俺にはピッタリだな」

ひとり納得すると、俺は夕日を背に旅館の敷居を跨いだ。




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