第4話『朝の浜辺』
第4話
『朝の浜辺』


朝食を簡単に済ませ、昨日の浜辺に行くことにした。
それにしても、夕飯に比べて朝食は質素だったなぁ・・・。

………

ザァァァァ〜〜!!

「いい風だ」

昨日いた場所あたりに座ったつもりだが、どうもよくわからない。
ただ同じなのは波の音と爽やかな風。

キョロキョロ・・・

俺は何気なく辺りを見渡した。
昨日会った女の子、あの子がいるんじゃないかと思ったんだが・・・。

「……いた」

女の子は昨日と同じように砂浜に佇み、ジッと海を眺めていた。
俺は掛け声をひとつ、重い腰を上げて歩み始める。

ザッザッザ・・・

「…よっ」

女の子のすぐ側に行くと、驚かせない程度の声をかける。
すると女の子がくるりと振り返り、昨日会った人だと気づくとペコリと丁寧に頭を下げた。

「あっ、おはようございます」

「おはよー」

「あの…、昨日はありがとうございました」

「ん? なにが?」

俺は一瞬、言われた意味がわからなかった・・・が!
女の子が手に持っている物を見てピンときた。

「ああっ、別に気にしなくていいよ」

「いえいえ、おかげで風邪をひかずにすみました」

「そんな大袈裟な…」

あまりにも丁寧に礼を述べるので、思わず照れてしまった。

太陽の日差しに照らされて輝く笑顔は、昨日会ったときより可愛かった。
俺より10cm程低い身長、スタイルはグラマー(死語)には程遠いスレンダー型。
少し幼い感じがする顔に似合わず、妙に大人っぽい黒髪のロングヘアースタイル。

そんな女の子が俺の目の前にいる。
なぜかは知らないが、一目見たときからどことなく惹かれた。
今まで感じたことのない気持ち・・・この女の子が気になる・・・。

「海…、昨日も見ていたけど…」

「うん」

「どうして見ているんだ?」

「なんとなく……かな?」

女の子は目を細めて海を眺めながら答えた。
その返答になにも答えず、俺も海を眺めることにした。

ザァァァァ〜〜!!

「俺は……なにをしたいんだろう…」

ふっ、といつも抱いている疑問を呟いた。
ここに来れば答えが見つかるかもしれない・・・少なからずそう思っている。
別に答えじゃなくても、ヒントでも見つかれば。
高望みをするわけではないが、何かしら欲しい。

「何を求めているんだろう…」

「あ、あの…」

きゅっ・・・

俺の手が柔らかい感触に包まれる。
気がつくと、いつの間にか女の子が俺の手を握っていた。

「元気だして」

「…そうだな。暗くなっていてもしかたないか」

「…はい♪」

女の子が嬉しそうに微笑むと、ポッと心の中が温かくなる。
会ったばかりなのになんだかそんな気がしない。
なぜだろうか・・・。

「『生きていれば誰でも悩む』なんて言いますが、私はそんなことは言いません。
 そんな一言で悩みが解決するわけではありませんし、無くなることはないと思います」

「そう……だな」

「悩みの大きさは人それぞれだと私は思います。
 だけど、他人から見れば小さな悩みでも、本人にとっては大きな悩み…」

正直驚いた。
俺はこの女の子を甘く見ていたのかもしれない、この女の子は見た目よりずっと大人なんだ。
初めて会ったばかりなのにそんな感じがしないワケ。
もしかしたら理由はそこかもしれない・・・。

「あ、ごめんなさい。会ったばかりの方に失礼かな?」

「……ぷっ」

俺は思わず吹き出してしまった。
ときどき口調が大人っぽくなったり、子供っぽくなったりと面白い子だ。

「わ、笑わないでください…」

「ははは、すまない。口調が子供っぽくなるなって」

「自分でも気にしているんです」

「まぁ、俺は可愛くていいと思うけど?」

「か、かかかか…からかわないでください」

女の子は頬を赤く染め、恥ずかしそうに俯いてしまった。

ザァァァ〜〜!!

お互いに一言も喋らず、波の音だけが響く。
柔らかい時間がゆっくりと流れた。
俺達を優しく包み込むようにのんびりと緩やかに・・・。




トップへ戻る 第5話へ