第6話『宴と寂しさ』
第6話
『宴と寂しさ』


カポ〜〜ン!

「風呂といえばこの効果音!」

俺は思わず自分の言ったことに納得してしまった。

「それはいいとして、今日もいろんな事があったなぁ」

一日の最後を締めくくるように風呂に浸かる。
上を見上げると夏特有の夜空に星が広がっていた。

「露天風呂はいいねぇ〜」

しみじみ感じながら呟いた。
本当に露天風呂はいいっ! 混浴だったらなお良しだったのだが・・・。

「そうそう都合よくはないよな…」

自分の言ったことに少し落ち込んでしまった。

………

「ふぃ〜、いい湯だった」

パタパタとスリッパで廊下を歩き、自分の部屋に戻る。

ガラガラ・・・

「あ、お帰りなさい」

部屋に入ると浴衣姿のあの女の子がいた。
俺はその事実に一瞬戸惑い、いったん廊下に出て確かめてみるとやっぱり自分の部屋だった。

「ここ…、俺の部屋だよな?」

「はい? そうですけど」

「そうだよな〜」

「…はい」

合点!
俺はポンっと手を打ち、全てを納得した。

「はいはい。で、なんの用?」

「えと、昨日借りた上着を返しに来たんです」

そう言って女の子は丁寧に折り畳んである上着を差し出す。
俺はそれを受け取ると、少し付き合うか聞いてみた。

「あのさ、見たところお互い風呂上がりみたいだし、ビールでも飲まない?」

「え? でも……私…」

「もしかしてアルコールだめ?」

「それ以前の問題なんですが…」

そのとき俺の頭を横切った単語。

『未成年』

なんとなく嫌な予感がしたが、試しに聞いてみることにした。

「俺はこう見えても22歳だけど、そっちは…」

「……3つほど下です」

「それぐらいなら問題ない! パァーと飲もうぜ」

俺はひとりで騒ぎ立て、部屋にある冷蔵庫にキンキンに冷やしていたビールを取り出す。
そして適当に食い物を見つくろい、宴をはじめた。

………

「…ふぅ、なんだか熱いな」

「飲み過ぎですよ?」

結局、俺ばかり飲んでいて女の子は一口も飲まなかった。
結構カタブツな性格のようだ。

「うん…、少しそうかも」

自分でもいつもより量が多いことはわかる。
少しハメを外しすぎたかなぁ・・・。

机の上には空き缶が4つほど並んでいる。
アルコールにさほど強くない俺にとっては結構な数であるのには違いない。

「こうしてビールを飲んで、寂しさを紛らわせることもあった…」

「…え?」

「何もかもがどうでもよくて、ただその事実から逃げて…」

「………」

「いくら現実逃避をしても現実は目の前にある。何の意味もない…」

酔っているからなのか、知らず知らずのうちに俺は自分の考えを語っていた。
つまらない話なのに女の子は嫌な顔をせず、耳を傾けてくれる。

「どうでもいいはずなのに、本当は温もりがほしかった…。
 逃げながらも、誤魔化しながらも俺は心のどこかで求めていた…」

「寂しがりやさんだね?」

「そうかもな。どれだけ自分を偽っても長続きはできなかった…。
 寂しさだけは偽りきれなかった………どうでもよくても寂しかった…」

そこまで言うと、堰を切ったようにポタポタと目から涙が零れた。

「俺……どうして…」

はじめは驚いたが、なんとなくこの涙の意味がわかった。
これは俺が今まで堪えてきたもの。
心はいつも泣きたがっていたのだが、自分はそれを偽ってきたのだ・・・。

「あの…、大丈夫ですか?」

女の子が心配そうな顔で近寄ってくる。
そしてすぐ側まで来ると、顔を覗き込んできた。

「その……私…」

「…ごめんっ」

俺は一言謝り、女の子の華奢な身体をギュッと抱きしめた。

「…あっ」

小さな悲鳴が静かな部屋に響く。

「少しだけこのままで…」

「……はい」

俺はいっそう強く女の子を抱きしめ、温もりを求めた。




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