第8話『夕陽』
第8話
『夕陽』


ザァァァァ〜〜〜!!

心地よいさざ波の音に柔らかな日差し。
時間はもうすぐ夕方になろうかとしていた。

「長閑だなぁ〜」

「そうですね」

俺達はボケーッと海を眺めながら黄昏ていた。
とくに会話があるわけでもなく、ポツリポツリ喋りながら座っている。

それでもよかった・・・。
ただ、それだけの時間が今の自分には最高に嬉しかった。
とても楽しかった。

「もうすぐ夕陽がでてくるころだな」

「…うん」

「綺麗だろうな…」

俺は想像してみた。
海に浮かぶ夕陽・・・
茜色に光る海・・・
夕陽を反射してキラキラと光る水面・・・

「いいなぁ〜」

「くすっ、あと少しで見られますね?」

「ああ、楽しみだ」

………

そして数刻。

俺の想像していたとおりの光景が眼前に広がっていた。

「綺麗だなぁ〜」

「本当に綺麗ですね」

二人してトリップ状態になったかのように海を眺める。
その姿は他人が見たら恋人同士に見えただろう・・・。

「こうしていると、もういつもの生活に戻りたくないなぁ…」

「………」

「このままずっと……死ぬまでいられたら…」

沈みがちにそう言ったとき・・・

「………」

ギュッ・・・!

女の子が無言で俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「…どうした?」

「今は嫌なことは忘れて、この自然を楽しみましょう?」

「……だな」

彼女の言うとおり、今は忘れてこの光景を楽しもう。
現実は帰れば、嫌でもこの目で見ることになる・・・。
なら、今この場所では考える必要はない・・・今だけは忘れてもいいんだ。

「ありがとう」

「…え?」

「いや…、ただお礼が言いたかっただけだから」

「…うん」

それからお互いに一言も言葉を交わさず、日が沈むまで海を眺めていた・・・。




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