第4話 女の子
第4話
『女の子』
キーンコーンカーンコーン
…ふぅ。
これで今日の授業は全部終わった。
それにしても、相変わらず面白くないな…。
………
そんなことはどうでもいいか。
さて、今日はすぐ帰るとするか…と考えたとき。
「村上〜〜」
沢田が声をかけてきた。
「………」
俺がすぐ帰ろうとする日に限って、ゲーセンに行こうとか誘ってくるんだ…。
「………」
「…な、なにイヤそうな顔をしてるんだよ」
「…今日はつきあわないからな」
「お、俺はまだ何も言ってないぞ」
「…では何だ?」
「えーと、それは…」
「…やっぱり」
こいつは毎回同じ事を言って…進歩のないヤツ。
「今日、俺1人でつまんねぇんだよ〜」
「…そうか。じゃあな」
俺はそう言い放って教室を出た。
「村上〜〜〜」
廊下を歩く俺を見て、沢田も廊下に飛びだしてきた。
「………」
「まってくれ〜〜〜」
「…イヤだ」
「そんなこと言わないでさぁ〜」
「………」
俺が相手にせず歩いていると、沢田に肩を掴まれた。
「話ぐらい聞いてくれよ…」
「…聞くだけでいいんだな?」
「うっ…、それだけでは困る」
「…じゃあ、ダメだ」
「ちょっ、ちょっと…」
「…まだあるのか?」
沢田とこんなやりとりをしていると…
「あ、あの…」
いつの間に後ろにいたのか、その女の子に声をかけられた。
「…ん?」
「……!」
俺は驚いた。
声をかけてきたのは、この前会った、琴美にそっくりな女の子だった。
「ん?なに??」
沢田が気軽に尋ねる。
「えっと、あの…」
「うん」
「そ、その…」
「………」
何が言いたいんだ、この子は…
「…俺は帰るからな」
ここにいても仕方ないので、俺は沢田に一言声をかけて帰ろうとした。
「お、おいっ…」
「あっ…! 待って下さい…先輩」
「………」
俺は足を止めた。
いつもは気にもしないのだが、このときは別だった。
「…先輩」
「…なんだ?」
「この前は…ありがとうございました」
「…ああ」
そう返事をすると、俺は振り返らずにその場を去った。
《 次の日 》
「村上〜〜」
俺が教室に入るとすぐに沢田が声をかけてきた。
「…なんだ」
「あの子はなんだ?お前の彼女か?」
「…あの子?」
あの子…?
誰のことを言ってるんだ?
「昨日、帰りに廊下で会った子だよ」
「ああ…、あの子か」
「そうだよっ。それで?」
「……?」
何が聞きたいんだこいつは…
「お前の彼女か?」
「…違う」
「じゃあ、お前の何なんだ?」
「…なんだもない」
「へっ?」
俺の答えに沢田は目を点にした。
「なんでもないって…友達か?」
「…違う」
「…一応聞くけど、あの子の名前は?」
「…知らない」
「…やっぱりな」
沢田は呆れたような顔をした。
そう言えば、名前…聞いてなかったな…
「お前の方こそ、いろいろ聞いたんじゃないのか?」
「俺か? まぁ、聞こうとしたけどさ…」
「……?」
「あの子、あんまり話さなくてな…」
「…話さない?」
「ああ。だから、すぐに会話が続かなくなってさ…」
「…そうか」
「でもな、お前のことを話すとあの子の反応が違うんだ」
「…違う?どんな風にだ」
「なんて言うかな…、他のことを話すと興味がないような感じなんだ」
「………」
「だが、お前のことを話すと興味があるような…、真剣な目をして聞くんだ」
「………」
俺のことを真剣に聞く……か。
「………」
「なぁ、村上」
「…ん?」
「お前はあの子のことをどう思っているんだ?」
「…俺?」
俺は……
「…俺は別に」
琴美に似てるだけ。そう思っているだけだ…
「そうか…。お前はどうも思っちゃいないようだが、あの子は違うようだぜ」
「………」
あの子がどう思ってくれても俺は…
「………」
「まぁ、お前を責めるワケじゃないが、あの女の子を傷つけないようにな」
「…ああ」
そう言って、沢田はどこかへ行ってしまった。
「………」
俺は…
どうも思ってはいない…
それに、名前すら知らない…
でも…
琴美にそっくりだ…
「………」
琴美にそっくり…その事実だけが俺の心に引っかかっていた。
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