第5話 美夜
第5話
『美夜』


《 休み時間 》

俺は何をするでもなく、ただ廊下を歩いていた。

「………」

暇だな…。
だからといって、歩いていて楽しいわけではないのだが…

「………」

そんなことを考えがら、一人歩いていた。

トコトコトコ

「…ん?」

ふと、俺は見覚えのある人物を見つけた。

「………」

あれは……、琴美にそっくりの女の子だ。

「………」

女の子は困っているのか、キョロキョロと辺りを見回している。
………
声でもかけてやるか…

「…どうした?」

「えっ?」

女の子は驚いたように俺の方を振り向いた。

「あっ…! 村上先輩」

「…!?」

なぜ、この子が俺の名前を知っているんだ…?
言った記憶は……ないな。

「…先輩?」

「…どうして、俺の名前を知っている?」

「えっ?…それは、沢田先輩から聞いたんです」

「…あいつか」

…だろうな。
俺のことを喋るのはあいつぐらいだからな…。

「あの…」

「…ん?」

「…なにか?」

「…?」

「えっと…、私に声をかけてきたのでなにかと」

「………」

俺としたことが本来の目的を忘れていたようだ。

「いや…、なにか困っていたようだから」

「は、はい…。その……」

女の子はなにやら驚いた顔をする。

「…どうした?」

「いえ…。村上先輩って自分から話しかけないって聞きましたから…」

「………」

「す、すみません…」

「…いや、別に気にしてない」

沢田のヤツだな…。
あいつ…、俺を何だと思っているんだ?

「…それで、こんなところでなにをしてるんだ?」

「あっ、えっと…。次の授業が音楽なんですけど、音楽室がわからないんです」

「…他の生徒は?」

「それが……みんな、先に行ってしまって」

「…そうか」

気づいたら自分だけ残されたってわけか…。
しっかりしているように見えるけど、そうでもないんだな。

「…音楽室は2階の東側の一番奥だ」

「そうですか……ありがとうございます」

「ああ……じゃあな」

俺は用も無くなったので去ろうとした。

「先輩っ」

女の子が呼び止める。

「…ん?」

「私……1年D組の『笹本 美夜』といいます」

「………」

「えっと……それで……あの」

「ああ…。またな」

「!…は、はいっ」

そして俺はその場を去った。

「………」

「……ふぅ」

笹本……美夜……か。
………
いい名前じゃないか…

俺はそんなことを考えながら、教室に戻った。





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