第6話 2人目
第6話
『2人目』


今日もつまらない授業を受けるのか…

「……ふぅ」

俺は重い足取りで教室に向かった。

タッタッタッタ…

後ろから誰かが走ってくるようだ…。
…まぁ、俺には関係なだろう。
沢田ならすぐに声をかけてくるし…

「………」

俺が構わず歩いていると、その足音は俺の真後ろで止まった。

「はぁ……はぁ……」

「…ん?」

息が切れる声が聞こえるので、俺は振り返った。

「キミは…」

「…おはよう…ございます。先輩」

「ああ、おはよう。えーと……笹本さん」

なにか言いづらい…
琴美以外の女の子は喋ったこと無いから、名前をどう呼んでいいやら…

「はぁ……はぁ……」

「…大丈夫か?」

「は、はい…。はぁ…はぁ…ちょっと走りすぎちゃって…」

「…そうか」

普通、走りすぎたぐらいで、ここまで息が切れるか?
これはちょっと異常だぞ。

「せ、せん…ぱい……はぁ…」

「…話すのは落ち着いてからだ」

「…は、はい」

俺はこの子が落ち着くまで待つことにした。

………

「…どうだ?」

「はい。すみません……ご迷惑をかけてしまって」

「…いや」

ふぅ…。
これで落ち着いて話せるな。

「先輩」

「…ん?」

「私のことは、呼び捨てでいいですよ」

「…えっ?」

「さっき、私のことを『笹本さん』って言いましたよね?」

「…ああ」

たしかに言った。

「先輩なんだから、後輩に『さん』付けはおかしいですよ」

「…そうか?」

「ふふっ、はい」

おかしいらしい…

「………」

「…先輩」

「…ん?」

「私のことは……名前で呼んで下さい」

「名前で…?」

「…はい」

そう言うなり、女の子はうつむいてしまった。

「………」

「………」

「……美夜…さん…?」

「先輩、『さん』はいりませんよ」

「だが…」

いきなり呼び捨てで…
しかも名前をだなんて……困ったな。

「いいんです…。そう…呼んでほしいんです」

「そうか…」

まぁ、この子がいいって言うんだし……そう呼ぶか。

「………」

「じゃぁ…、美夜」

「は、はい…」

「………」

「……?」

「………」

「…なんですか?」

「いや…、呼んでみただけ」

「そうですか……嬉しいです」

「………」

嬉しい……か。
そんなもんなのか…?
俺にはよくわからないな。

「先輩」

「…なんだ? 美夜」

この時点で、呼び方に対する違和感は無くなっていた。

そして、美夜は俺がまともに話す2人目の女の子になった。





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