第8話 お弁当
第8話
『お弁当』
キーンコーンカーンコーン
昼休み……か。
しかし…
「村上〜〜、メシ食いに行こうぜっ」
いつものように沢田が声をかけてくるが……
「………」
「どうした?」
俺には元気がなかった。
「……1人で行ってくれ」
「なにっ!?」
沢田が大きな声で驚く。
「具合でも悪いのか?」
「……違う」
「じゃあ……なんだ?」
「金が……ないんだ」
「金欠か?」
「いや、忘れたんだ」
「はぁ……、あっそ」
そっけない返事をする沢田。
「………」
「じゃあな〜〜」
「………」
沢田は俺を放って食堂に行った。
……友達がいのないヤツ。
「…どうするか」
俺が悩んでいると…
「…先輩」
「…ん?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ふと見ると、教室の入り口で俺を呼ぶ、美夜の姿があった。
まぁ、俺の席は廊下側だから、すぐにわかるんだけどな…
「…どうした?」
「あの……先輩は……もう、お昼は食べましたか?」
「そ、それは…」
金を忘れたなんて言えないな……
ついでに沢田に見捨てられたなんて……
「…先輩?」
「いや、今日は食べてない」
「で、でしたら……お弁当食べませんか?」
「弁当?」
弁当って……俺は何もないんだけどな。
「私……先輩の分も作ってきたんです」
「えっ? 本当か?」
「はい」
美夜が……俺に弁当を……
「……あの」
「ん?」
気がつくと、クラス中の視線がこちらに向いていた。
「屋上にでも行くか」
「……はい」
俺達は屋上へ向かった。
《 屋上 》
「はい、どうぞ」
「…ああ」
差し出された弁当……
俺はそれを受け取って、一口食べた。
「………(ドキドキ)」
「………」
「どう……ですか?」
「…うまい」
こいつは……かなり美味いぞ。
美夜は料理が得意なのか……
「…これはうまい」
「よかった。先輩の口にあって…」
「これなら…」
「え?」
「これなら、毎日でも食べたいくらいだ」
俺の口から、そんな言葉が出た。
「ほ、ほんとですか?」
「え?……あ……まぁな」
「でしたら……また作ってきましょうか?」
「……いいのか?」
「はい」
思わぬ答えが返ってきた。
しかし…
「しかし……美夜はいいのか?」
「…えっ?」
「俺なんかのために、弁当なんか作って……時間かかるだろ?」
「そんなことないです。1人分も2人分も、あまり変わりませんから…」
「そうなのか?」
そう……なのか?
琴美は手間がかかるとか言っていたけどな…
「それに……先輩のためなら…」
「…ん?」
「い、いえ。なんでもないです」
「…そうか?」
「………」
誰にでも優しく、こんな俺にも優しい美夜。
俺はそんな美夜に少しずつ惹かれていった…
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