第12話 琴美1
第12話
『琴美1』


《 2年前 》

「お兄ちゃん」

「…ん? なんだ」

妹の琴美が後ろから抱きついてくる。

「…おいおい」

「お兄ちゃん……好き」

「………」

…ふむ。兄妹のノリってやつか…

「ああ。俺も琴美が好きだ」

「……むぅ」

琴美が頬を膨らます。

……?

「どうした?」

「そうじゃないの」

「そうじゃないって……?」

「あ…あのね。私……お兄ちゃんが好きなの」

「ああ。だから俺も琴美が好きだぞ」

「……妹として?」

「そりゃ……もちろん」

「………」

今度は黙ってしまった。
一体何が言いたいのか…

「お兄ちゃんは……私のこと1人の女の子として……どう思う?」

「えっ?……そうだな」

1人の女の子として……か。

「琴美は……どこにだしても恥ずかしくない自慢の妹だ」

「お兄ちゃん……『兄』の立場で言ってるよ」

「…そうか?」

「…う、うん」

琴美は残念そうな顔する。

「まぁ、どこの馬の骨かわからない奴に琴美はやれないな」

「…えっ?」

「自慢の妹を見知らぬ男にやれない。まぁ、琴美が自分で連れてきたら別だけどな」

「……どういうこと?」

琴美はわからないといった顔する。

「例えば……『琴美さんをください』と言う男が来たとしよう」

「うん」

「そしたら……そのときは俺が試させてもらう」

「試す? 何を??」

「琴美を幸せに出来る力量があるか…琴美を支える器があるかを……」

「…んにゃ?」

琴美が変な声をだす。
たぶん、俺の言っていることが理解しにくいんだろうな。

「じゃぁ、私が連れてきた場合は?」

「その場合は……同じだ」

「なんか……さっきと言ってることが違うよ」

「………」

…ふぅ。
俺って完全にシスコンだな。

「連れてきていい?」

「…誰を?」

「私の好きな人」

「!……いるのか?」

「…う……うん」

琴美が顔を赤く染める。
………
これは……琴美は本気だな。

「しかし……好きな人って言っても……相手はどうなんだ?」

「…ふぇ?」

「相手はお前のこと……好きなのか?」

「…うん」

「両想いか…」

まぁ、琴美に惚れる男なんて沢山いるだろうよ。

「連れてきて……いい?」

「ああ、構わないぞ」

「じゃぁ…」

そう言って琴美は俺に抱きついたまま離れない。

「……?」

「お兄ちゃん」

「…どうした?」

「連れてきたよ」

「…どこに?」

「私が抱きついている人」

「………」

俺………か?

「琴美……冗談は……」

「冗談じゃ……ないもん」

「………」

「私……お兄ちゃんが好きなんだもん」

そう言う琴美の目は真剣だった。

「…琴美」

「お兄ちゃんは……私のこと…どう思っているの?」

「おいおい…」

「こたえて」

俺は……実は琴美のことが好きだ。
妹としてではなく……女の子として……
それは……

「何を……俺と琴美は兄妹……」

「違うよ」

「!!」

い、今……なんて?

「私とお兄ちゃんは兄妹じゃないよ」

「な、なにを言ってるんだ…」

「…私は養子だったんでしょ?」

「………」

「だから本当の兄妹じゃない」

「………」

そう、俺と琴美は本当の兄妹じゃない。
だが、琴美が養子として来たのは琴美がまだ小さい頃…
俺はそのとき、それなりの年齢だったので覚えているのだが……
琴美は……覚えていない……はず。

「…その事をどうやって知った?」

「偶然……手紙を見てね……」

「手紙?」

「うん。私の本当のお母さんから…」

「えっ?」

なんだって? 琴美の本当のお母さん…?

「お母さん同士、手紙のやり取りをしてたらしいの」

「それは初耳だ」

「それで……偶然お母さん宛の手紙を読んだら…」

「琴美の本当のお母さんだった……と」

「…うん」

なんてこった…

「だから……私達結婚できるよ?」

「…おいおい」

琴美は強いな…。
そんな事実を知っても明るくしていられるなんて…

「最初はね……私って変なのかな?って思っていたの」

「…変?」

「うん。お兄ちゃんが好きだって……兄じゃなくて1人の男性として」

「……琴美」

「それを学校で言ったら笑われた事もあったの」

「………」

「でも、本当の事を知ったときわかったの」

「………」

「だから私……お兄ちゃんのことが好きなんだって……だって血が繋がってないもんね」

「………」

そうか…。
琴美も同じだったのか……
でも……俺の気持ちは言わない方がいい。
それが……琴美のためだ。

「お兄ちゃんの返事……聞かせて?」

「俺は…」

俺みたいなのは琴美の気持ちに応える資格はない。
たとえ琴美が俺のことを好きだと言ってくれても……

「俺はなんとも思ってないぞ」

「ええーっ」

「しかし、1つだけ言えることがある」

「な、なに?」

琴美が身を乗り出して聞いてくる。

「琴美は俺の自慢の妹だ」

「…それだけ?」

「ああ」

「…そ、そう」

琴美はがっくりと肩を落とす。

「…いいもん」

「…ん?」

「いつか……絶対にお兄ちゃんを振り向かせてやるぅ〜」

「はっはっは。それだったら、もっと女を磨かないとな」

「むぅ〜〜」

琴美は破裂しそうなぐらい頬を膨らませる。

「ところでさ…」

「…なに?」

「どうして……俺が好きなの?」

「えっ?…そ、それは……」

とたんに琴美は顔を真っ赤にする。

「お兄ちゃん……優しいし……それにカッコイイもん」

「……俺が?」

「…うん」

これは驚いた。
俺の評価はそんなに高いのか?

「私の友達の中でも、お兄ちゃんは人気あるよ」

「…そうなのか?」

「うん。中には一度お兄ちゃんを見て、一目惚れした子もいるんだ」

「そ、それはそれは…」

意外な真実。
自分のことだけに、かなりビックリだ。

「だから…」

「……?」

「お兄ちゃん……取られたくないもん」

「……誰に??」

「友達に…」

「友達?」

「お兄ちゃんを狙っている友達がいるの」

「お、俺は殺されるのか?」

俺は冗談混じりにそんなことを言った。

「茶化さないで!」

「…すまん」

「私……お兄ちゃんが……」

「安心しろ」

「えっ?」

琴美にここまで言われたら、なにか言ってやらないとな。

「俺に彼女はいないし…」

「………」

「別に琴美の友達にも興味はない」

「……それって」

「まぁ、琴美が今よりもっといい女になったら……俺が振り向くかもな」

「ほ、ほんと?」

「ああ」

「お兄ちゃんっ!」

琴美がおもいっきり抱きついてくる。

「琴美……苦しいって」

「私……絶対お兄ちゃんを振り向かせてみせるっ」

「ああ。頑張りな」

「うんっ!」

それまでに俺も琴美と並ぶくらいの人間になっていないとな……
そして……そのときは琴美に俺の気持ちを伝えるんだ……





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