とある店員の観察日記〜第2章〜

 みなさん、こんにちは。3回目ですがもうお馴染みのバイト店員です。今日もバイトはお休みです。いえ、ラインは入ってるんですけどね。先週の尾行でキョン君と涼宮さんがペアになった時がポイントだということが分かったので、私はそれを報告して、そうなった時だけ尾行することにしてもらいました。つまりですね、もし2人がペアにならなかったらそのままお仕事に戻る、というわけです。私って頭いい!
 で、今現在私はとりあえずお客さんとして店にいるんですが、そろそろ...ってあれ?今日は2人だけですよ?他の3人はどうしたんですか?


 「もう!みくるちゃんも有希も古泉君も来れないってどういうこと?」
 「仕方ねぇじゃねぇか。3人とも急な用事が入ったんだろ?だったら来れなくても...」
 「そうじゃないわよキョン!私が気にしてるのは、その用事が何かってことよ!」
 「そんなこと、お前に言わなきゃならないもんでもないだろうよ。」
 「それは分かってるわよ!」
 「どっちなんだよ...」
 「ふん!まぁいいわ、ならキョン、今日はあんたが4人分の働きをしなさい!」
 「勘弁してくれ。俺は俺の役割しか果たせん。」

 (とは言いながら、俺には分かっていた。ハルヒはSOS団として、5人で楽しみたいって思っているなんてことが。だからこそ本気で怒っているわけでもなく、現に3人を無理やり出席させるなんてことはしていないんだ…)

 あらら、今日は他の3人はお休みなのね。でもちょうどいいわね。これで今日の尾行は決定ね。どんな不思議を探すことになるのか、ちょっと楽しみね。フフフ☆


 「2人を確認。現在いつもの喫茶店で談笑中。」
 「談笑というより、キョン君が涼宮さんを宥めているようにしか見えませんよ…」
 「そのようですね。おや、そろそろ出てきますよ。お2人に気づかれないよう尾行しましょう。」
 「………。」


 「キョン!行くわよ!」
 「へいへい…」

 さぁ、2人が動き始めたわ。どこに行くのかしら。図書館?川沿いの遊歩道?それとも…って、ちょっと待って〜バレたら困るけど、待って〜置いてかないで〜
 
 「不思議探索はいいが、どこに行くんだ?」
 「決めてないわ。あんたの好きなところに連れて行きなさい!でも、つまんないところだったら死刑だからね!」

 涼宮さんの声は大きいから、全部じゃないけれどだいたい聞き取れるわ。それにしても、涼宮さんが好きなところってどこ?
 
 「んな無茶なことを言うな。ってそうだな、俺の好きなところに行けばいいんだな?」
 「そうよ。」
 「じゃあ自宅だ。」
 「死刑になりたいの?」
 「何でそうなるんだ!」
 「つまらないところは死刑だって言ったでしょ!?」
 「俺の家はつまらないところじゃねぇぞ?」
 「あんたがつまんなくても全然気にしないけど、私がつまんないんじゃ論外よ!」

 涼宮さん、それじゃあキョン君がかわいそうですよ。あぁ、でもキョン君は涼宮さんのことが好きで、ということは、もし自宅なんかに行ったらそれこそ不思議なことが起こるんじゃないかしら?私だって女子高生よ、そっちの方面の知識がないわけじゃないし、興味だってあるわ。涼宮さん、どうやら彼の自宅には行きたくないようだけど、あれは本心なのかしらね。自宅だと言われた瞬間、ピクッとなったみたいに思えたけれど…


 「なんというか、彼は気づいていないんでしょうか。あれじゃどう見ても自宅に涼宮さんを誘っているとしか思えませんが。」
 「彼にそんな気持ちはない。帰りたいだけ。自分では気づいていない。涼宮ハルヒも気づいていない。」
 「ふぇぇ…聞いているだけで顔が熱くなってきますよぉ…」
 「朝比奈さん、まだ早いですよ。そして長門さん。何を食べているんですか?」
 「カレー」
 「いつ買ったんですか。こんな街中でカレーの食べ歩きとは…、いえ、いいでしょう。」


 どこに行くのかでキョン君はとても悩んでいるみたいね。でも、あまり高いところに行ってほしくないわ。私が尾行できないもの。今月のお給料は少ないのよ。理由なんて言わなくてもわかるわよね。先輩のせいよ、もう。

 「わかったよ、じゃあそうだな、もう昼だし今から遠出するのもなんだから、高校の方に行ってみるってのはどうだ?」
 「はぁ?なんで休日にまでわざわざあんなところに行かなきゃならないのよ?あんた、そんなに学校が好きなの?」
 「いや、そうじゃねぇ。そんな奴は谷口だけで充分だ。」
 「じゃあ何でよ。納得いく理由を言いなさい!」

 (う…咄嗟に納得いく理由なんて思いつかねぇぞ、ええと…あ、そうだ。これならどうだ?)

 「灯台下暗し、って言うだろ。」
 「それが何?」
 「まぁ聞け。俺たちは毎日学校に行ってSOS団として活動している。でもそれは平日のことだ。休日の北高に何があるのかを調べたことはないんじゃないか?もしかしたら不思議なことがあるかもしれん。」
 「…そうね、確かにそうかもしれないわ。いつもは生徒や教師が多すぎて不思議の方も出て来れないのかもしれないわね。キョン!たまにはいいこと言うじゃない!」
 「たまに、は余計だ。」

 (やれやれ、うまくいったか…)

 どうやら2人は北高の方に行くみたいね。でも今日行っても入れないんじゃないかしら。それに制服ならまだしも、あの2人も私も私服よ?先生に見つかったらなんて言い訳すればいいのか分からないわ。けれど、ここで尾行をやめるわけにはいかないわ。毒を喰らわば皿まで、じゃないけれど、こうなったらとことん尾行してやるわ!


 「彼らは北高に行く。」
 「そのようですね。」
 「どうしましょう…?」
 「もちろん、追いかけるまでです。と、その前に、長門さん。」
 「何?」
 「カレーを食べきってください。匂いで気づかれるかもしれませんから。」
 「大丈夫。心配はいらない。半径1mより外のカレーの匂いの構成情報は解除してある。」
 「つまり、他の人には匂わない、というわけですか。」
 「でもでも、北高に行くんですよね。制服とか着なくていいんでしょうか?」
 「そうですね、長門さんはすでに制服ですから、いざとなったら長門さんにお願いしますが、大丈夫だと思いますよ。僕たちはね。」
 「そう。」
 「ふぇ?僕たちってどういうことですか?なんで2人はそっちに行くんですか〜?見失っちゃいますよぉ〜」


 さぁ、私も覚悟決めました!制服ではないのがちょっと気にかかりますが、北高までついて行きましょう!ってあれ?なんだか後ろにカレーの匂いが…

 「失礼いたします。」

 ドキン!え、誰ですか、まさか警察ですか?ストーカーと思われたんでしょうか??ごめんなさい、そんなつもりではないんですよ、ほんのちょっとした出来心で、ちょっとだけあとをつけてみようかな、と思っただけで他意はないんです!信じてくださいお願いしますぅ〜

 「落ち着いてください。僕たちは警察ではありません。」
 「そう。それにその言い分だとかえって疑われる。」

 そうですよね…これじゃ私がストーカーだって言っているようなものですよね。ってアレ?あなたたちはSOS団の3人じゃありませんか?なぜこんなところにおいでなのですか?今日はいらっしゃらなかったはずですよね?

 「あなたと同じ。」

 ………え?

 「ですから、僕たちもあなたと同じく、彼らをつけているという訳ですよ。」

 ………え?私と同じ??ということはもしかして、私が尾行していたのは…

 「バレバレユカイ」

 ええええぇぇぇぇ!!ばれていたんですかぁ!ってことは、ここは謝罪したおすべきですよね。ゴメンなさい別に何も悪いことはしてませんししようとも思っていませんでしたので許してください!何なら喫茶店の代金を特別サービスで割り引いても構いません!

 「ユニーク」
 「落ち着いてください。特にあなたに危害を加えるつもりはありませし、割引きならむしろ彼に言ってあげてください。確かに最初から気づいておりましたが。ちなみに、彼も気づいていますよ。」

 ええ!ということは、あの図書館や川沿いの談笑やいろいろは全てお見通しだったというわけですかそうですか…

 「ユニーク」
 「そういうことです。」
 「ユニーク」
 「長門さん、ちょっと黙ってください。それに何でもユニークと言えばいいというわけではないでしょう。それよりも、です。彼女以上に問題のあるのはこちらですよ。」
 「ふぇ?どどどどういうことですかぁ?彼女は誰で、何で長門さんと古泉君は彼女に話しかけているんですかぁ?」
 「朝比奈さん、落ち着いてください。そうですね、彼らを追いかけながら説明いたしますので、長門さん、そしてあなたも一緒についてきて下さい。」

 ううぅ、完敗です。まさか最初から気づかれていたなんて...。ということで、私の出番はここまでです。私は古泉君以下3人に捕獲されたわけですからね。ここからのモノローグは古泉君にバトンタッチです。


 こんにちは、古泉です。お茶目な喫茶店店員さんに代わってここからは僕がお送りします。さて、朝比奈さんにも事情を説明して、4人になってしまいましたがこのメンバーで彼と涼宮さんをつけて北高まで来た、というわけです。

 「北高へ来たこう(来たぞ)!」

 「……….」

 「………」

 「………ユ、ユニーク。」

 「………」

 みなさん、そんな冷淡な目で見ないで下さい。三点リーダは長門さんの特権のはずです。それにセリフが1つ多いのではないでしょうか。これは読者さんのセリフですか?長門さんも、引きつりながらユニークといわないで下さい。かえって凹みます。

 「あ、ほらほら!キョン君と涼宮さんが校舎に入って行きますよ!」

 あぁ、朝比奈さん。あなたは今僕の救世主です。今度高級茶葉を奉納しますよ。

 「そ、そうですね。見失ってはいけませんから、後を追いましょう。」

 さて、彼はいったいどういう行動をしてくれるのでしょうか、楽しみですね。


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