とある店員の観察日記〜エピローグ〜

 「さぁ、今日も張り切って不思議探索をするわよ!」

 ハルヒが威勢のいい声を張り上げる。そう、俺とハルヒは今日も例の喫茶店に集まって週末の恒例行事のウォーミングアップをしているわけだ。もちろん、あの店員さんもいる。例によって俺が支払いをすることになっているのだが、今日はいつもと違って気が軽い。古泉ほか2名がいないから、というわけではないぜ。不思議探索とは名目だけの、告白後の初デートの日だからってのはあるが、それだけでもない。

 実はあのあと、例の店員さん、まぁ名前は知らないが同じ北高の1年生女子なわけだが、彼女に一回だけの特別割引券をもらったのである。彼女いわく、「私がレジをしますので、それを出してください。そしたらお支払いは半額にします。残りの分は私が出しますから。」ということだ。さすがにそれは、と断ったが、押し切られた。情けねぇな、俺。
 さてと、前置きはこれくらいにして、あの後俺たちがどうなったのか、ハルヒがトイレに行っている隙に回想してみようかね。


 「………。」

 「………。」

 ハルヒは目だけじゃなく顔をも赤くしながらこちらを睨んでいる。そりゃそうだろ、別に好きでもない男にいきなりキスされたんじゃそうなるよな。

 「ど、ど、ど、どういうつもりよキョン !いきなり唇を奪うなんて信じられないわ!」

 ここは予想通りだ。それにしては顔が赤いぞ。まだ夕方にはなってないが。

 「まったく、やっぱり団員としての気構えがなってないわね!ちょっとは考えて行動しなさいよ。私の返事がOKじゃなかったら死刑じゃすまないところよ!わかってるの?それくらい考えなさいよ!」

 いやまったくその通りですハルヒさん、俺としたことがどうかしてたぜ...ってちょっと待て、お前今なんて言った!?私がOKじゃなかったら?どういうことだ、ここはどうでもいい所じゃないぜ?

 「何よ、自分は1回しか言わないとか言いながら私には2回言わせる気?まったく、これから教育が必要ね!特別にもう1回だけ言ってあげるから、今度聞き逃したら知らないわよ!」

 いやごもっともですハルヒさん。もう正論すぎて反論できねぇ。だが、こればっかりは俺の将来に関わることだから、どんな罰ゲームでも受けるんでもう1回言ってくれませんかね?
 

 「だから、」
 

 「私もキョンが大好きってことよ!」
 

 ハルヒが今度は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いている。ハルヒが俺を好きだって?あぁ、夢を見ているんだろうか。きっとそうだ。まさかあのハルヒが俺を好いてくれているなんて、告白しといて何だがすぐには信じられないぜ...なんてな。お礼の意味を込めて、俺はもう一度ハルヒにキスをした。


 パチパチパチ……
 どこからか拍手が聞こえる。あぁそうか、気が動転して忘れかけていたが、こいつらやっぱり隠れていやがったな。ハルヒはあわてて俺から離れる。


 「おめでとうございます、と言っておきましょう。いえ、本心です。そして、ありがとうございます。」

 古泉が出てきて深々と頭を下げる。いや、別にお前に頭を下げられるようなことはしてねぇぜ?ちなみにハルヒはびっくりしたような顔で絶句してやがる。

 「キョン君、涼宮さんを悲しませるようなことをしたら許しませんよ?」

 北高一の美少女である朝比奈さんが忠告してくれる。その忠告は心に刻ませてもらいますよ。ところで、まだ赤いようですよ、朝比奈さん。まぁハルヒほどではないですけどね。

 「…ありがとう。」

 長門が俺にそんなことを言ってくれるなんてな。いや、むしろ俺が礼を言わなくちゃならないな。
 いつもありがとうよ、長門。
 ところで、お前ら3人が登場したことによってハルヒはいよいよ黙り込んだわけだが。

 「わ、わ、私もお2人の将来を祝って!祝福の言葉を言いたいと思います!」

 ……….誰だ?


 「彼女は僕たちが毎回行っている喫茶店の店員さんにして、この学校の生徒さんです。」

 古泉が口を出す。わかった。ウチはバイト禁止だったような気もするがそれもどうでもいい。俺たちだって夏にしたからな。問題はなぜその彼女がここにいるのかということだ。

 「あなたも気づいていたかと思いますが、ここ最近、僕たちが不思議探索をする時に後ろからついて来ていた人がいるんですよ。」

 それなら知ってる。そんな奴がいるんじゃないかってな。俺はまた長門の敵か、あるいはハルヒかって思ってたんだがな。まさかそれが。

 「そうです。その尾行者が彼女なのです。」
 「ご、ごめんなさいぃ」
 「で、ですね。今日もあなたの後ろからつけていたので、僕たちが声を掛けてご協力願ったというわけです。」

 そうかい。というか、その言い方だとお前らもつけてたんじゃねぇかよ。

 「その通りです。」

 さらっと抜かしやがる。まぁ俺もお前らが尾行しているという予測は立ったが、全く気づかなかったぜ。どういうことだ?

 「それは、いつも僕たち3人の時は長門さんが不可視遮音フィールドを展開してくださっているので、たとえ涼宮さんでも気付くのは無理です。そして、今回は彼女に近づく際にそれをこっそり展開してもらったというわけです。」

 ったく、やっぱり長門か。いや、ところで古泉よ、そんな話をここでしていいのか?さっき、「我々の正体を知らない方が1名ほどいらっしゃるので、ここで長門さんに不可視遮音フィールドを展開してもらうことはできません」なんて言ってなかったか?それにここには事情を知らない彼女だけじゃなく、知られてはいけないハルヒまでいるんだぜ?
 ほらみろ、ハルヒが100Wの笑顔を取り戻してやがる。それは俺の役目だっつーの。まぁいいか。俺はこいつを泣かせた落とし前はつけたつもりだ。今度はお前がこいつを笑わせた落とし前をつけることだな。どっちが難しいかなんて知るかよ。



 「……あ」
 「こ、こ、古泉君どうするんですかぁ!私知りませんよ!?」
 「俺も知らないぜ?」
 「…超ユニーク」



 さて、その後の2人の質問攻めを古泉がどう回避して特にハルヒをどう説得したのか、なんてことは書かなくていいよな。というか、書きたくても書けねぇよ。なんせあの後俺と長門と朝比奈さんは残り2人を古泉に押し付けて帰ってきたんだからな。古泉に聞いても頑として話してくれねえ。っと、ハルヒがトイレから帰ってきたぜ。この辺で俺の回想は終わりだな。あとはそこにいる可愛い店員さんに聞いてくれ。じゃあな。


 はい、最後の最後に再登場しました。喫茶店のバイトをしている女子高生です。なぜか最初とはキャラが変わっているような気もしなくもないですが、そんなことは些細な問題です。さて、今日も私は元気に働いています!あの衝撃的な告白劇のあと、もうSOS団の不思議探索を尾行することはなくなりました。バイトも元通り通常業務に戻りました。まぁ、たまに週末空けてもらうことがあるんですが。それはSOS団に欠席者が出た時に、ピンチヒッターとして私も参加させてもらえるようになったからです!といっても、彼と涼宮さんが2人だけの時はその他3人が必ず尾行しているので、私はこっそりそちらに参加させてもらうんですけどね。今日もそうなる予定です。

 バイトの先輩には適当に報告しておきました。だって、彼のあんなに真剣な告白を真面目に報告するわけにはいかないじゃないですか。それは彼に失礼ですよ。結局不思議なことは何もなく、ただ市内を散策しているだけだった、ってね。先輩は残念がっていましたけれど、ある意味でそれが本当のことなんですからね。

 それでは私は3人のところに戻ります!またいつか、機会があれば会えるかもしれませんね。それまでさようなら。


 え、私の正体?どうでもいいじゃないですか。


 どうしても知りたいんですか?この前のバレンタインデーにあったSOS団のチョコ争奪戦で56番の整理券を持っていた者ですよ。

序章  第1章  第2章  第3章  戻る

<あとがきのようなもの>
さて、これで一応書き上げたわけですが、改めて読み返すと初めてにしてはなかなかいいんじゃないかと思ったりそうでなかったり。
店員さんのキャラ設定は自分でアレンジしました。いったいどれだけの人が予測できたでしょうか?
古泉が何気にマヌケでキョンが鋭い。いつもの逆パターンですね。
最後の古泉の大ポカは本当にひらめきです。原作の古泉なら絶対こんなことはしない。でも一番お気に入りのシーンです。
本当のところ、当初の予定とはかなり違った終わり方をしています。でもなんとか形になってよかった。
本当はですね、最後5人で散策しているところで店員さんにバラそうと考えていたんですが、まぁなんというかこっちの方がいいなと思った。
もうちょっと長く書くつもりだったけど、朝日が昇ってきたので時間切れ。長編というほどではないけれど、短編ほど短くもない。中編ですね。
改行がグチャグチャで読みにくいのはご容赦ください。限定無しでブラウザの端まで流そうと思ったんですが、それだとかえって読みにくくなると思ったので、表に埋め込みました。
キョンの告白のセリフをどうするかが一番悩んだ。ストレートに行こうと漠然と考えながら、そこまでの過程はほぼ思いつきです。勢いだけの産物。
欲を言えば朝比奈さんをもうちょっと出したかったけど、残念。