とある店員の観察日記〜第3章〜 |
古泉です。さて、彼と涼宮さんを追って北高に来ましたが、僕たち4人は今屋上でお2人を待っているところです。どうやら彼らはまだ部室にいるみたいですが、なんというか、彼もベタですね。考えていることがバレバレユカイですよ。 さて、いつもより1人多い尾行組ですが、それでは僕らがここにやって来るまでの経緯と、今の彼らの様子を見てみましょう。僕が朝比奈さんに彼女のことをどう説明したか、そしてその彼女は今どうしているのか、なんて今はどうでもいいでしょう。 「で、北高に来たわけだけど、どうするのよ?」 「そうだな、とりあえず部室に行こうぜ。」 「じゃあ鍵を取ってきなさい。私は先に行ってるから!」 「へいへい…って今日の職員室は開いてるのか?まぁ行ってみるか。」 「持ってきたぞ。なぜか知らんが職員室が開いててよかったぜ」 「遅かったじゃない。団長を待たせるなんて、団員としての意気込みが足りないんじゃない?」 「うるせぇ。俺は職員室に寄ってから来たんだから、お前より遅くなるのは当然じゃねぇか。」 「ふん、まぁいいわ。罰としてお茶淹れなさい。」 「へいへい…」 「………。」 「……….。」 「……….。」 「……ねぇキョン、ヒマだわ。何か面白いことをしなさいよ。」 「まぁ待て。俺の心の準備をさせてくれ。」 「何よそれ、まぁいいわ、ちょっとだけ待ってあげるから、その間にとびっきり面白いことを考えなさいよ!」 (はてさて。俺が何の心の準備をしているのか。もうわかるよな。そう、告白だ。いや、この流れでそれはないだろうというツッコミを入れたくなるのは分かる。だが、今日はあいつらがいないし、俺の性格からしていきなり呼び出したりすることはできねぇ。だから今日がチャンスと考えたわけさ。どういう心境の変化があったのか、それを説明しねぇとよく分からないよな。最初に言っておく。俺は最初から全部気づいていたのさ。) 〜月曜日 キョン自宅〜 「ふぅ、今日も疲れたぜ。しかしハルヒか…」 俺は古泉と2人で川沿いの並木道を散策した次の日の夜、またしても1人でベッドの上で考え込んでいた。くそ、これもあの野郎があんなことを言うからだぜ。 〜月曜日 学校〜 「あなたは、涼宮さんのことについてどう思っているのですか?」 月曜日、休日が終わってしまったことを呪うような気持ちで登校してきた俺の気持ちを、古泉の野郎はさらに暗澹たるものにしやがった。 「それはどういう意味だ?」 「どういう意味、と聞かれるからには2通り以上の解釈があると理解している、ということでよろしいでしょうか。」 やれやれ、とことん揚げ足を取ってくる奴だ。そういえば、ここ1ヶ月くらいこいつだけじゃなく、長門も朝比奈さんも、ついでにハルヒまでも様子が少し変だったな。 「うるせぇよ。ハルヒだろ、いつもいつも俺を振り回すのは自重して欲しいぜ、ってところか。」 「しかし、それでもあなたは毎回文句を言いつつ涼宮さんに付いていっていますよね。」 「そりゃあ、俺が行かねぇとあいつの不満が爆発して、閉鎖空間を生み出しちまうんだろ?だからそれを防いでやってるのさ。つまり古泉、お前のためでもあるんだよ。」 「それはそれは。ありがとうございますと言っておきましょう。確かにあなたが来なければ涼宮さんはヘソを曲げてしまうかもしれませんね。というか、以前あなたが親戚のお宅に行った際にもそんなことがありました。あの閉鎖空間を消滅させるのは一苦労でしたよ。」 「そりゃご苦労だったな。けど俺だけじゃないぜ。あいつはSOS団の誰かが欠けると暴走しやがるからな。」 「おや、そうでしょうか。」 「どういう意味だ。」 「あなたは、涼宮さんがSOS団の誰かがイベントに欠席すると閉鎖空間を生み出す、と考えているのですか、という意味です。」 「ああそうだ。あいつがSOS団を大切に思っていることぐらい、いくら俺でも分かってるさ。」 「その点について否定する気は全くありませんし、事実涼宮さんはSOS団をかけがえのないものだと感じているでしょう。しかし、その中でも特にあなたには特別な感情があるようですよ。」 「何でそんなことが言えるんだ?」 「あなたと涼宮さん、2人だけの不思議探索をしたことが数回ありますが、そのいずれも、彼女は閉鎖空間を生み出しておりません。」 「何?」 「言ったとおりです。まさか、気づいていなかったんですか?だとしたら、僕はあなたに失礼なことを言わなければなりませんね。」 「いや、待て。言われるまで気づかなかっただけだ。閉鎖空間が生まれた時にお前が毎回俺に連絡を入れているわけじゃないからな。」 「そうですか。まぁいいです。それでは改めてお聞きしますが、涼宮さんについてどう思っているのでしょうか。いえ、はっきり聞きましょう。あなたは涼宮さんに恋愛感情を持っているのではないでしょうか?」 「………。」 俺は咄嗟に答えられなかった。いや、俺があいつに好意を持っていないわけではない。だが、それが恋愛感情ではないと思う。だが、改めて聞かれるとそこがはっきりしない。いや、正確にはそうだと言うべきかどうか分からないってところだ。俺がどう答えようか考えて無言でいると、古泉はそれを解答と受け取ったらしく、こんなことを言って俺をさらに黙らせやがった。 「フフ、一度真剣に考えてみてください。あなたと涼宮さんがくっついてくれれば、僕の心配も軽減されるわけですし...いえ、それだけが理由ではないのですが。あ、そうそう。肝心の涼宮さんですがね、っと。この先はあなたがご本人に聞くべきことですね。それでは。」 〜月曜日 キョン自宅〜 「俺がハルヒをどう思っているか、か。ったく、古泉も余計なことを聞いてくれるぜ。というか待てよ、そうか、古泉も長門も朝比奈さんもグルか。だからここ1ヶ月の様子が変だったんだな。いくらハルヒが願望実現能力を持っていたとしても、6回連続で同じ組にならない確率なんてそれほど高くねぇぜ。具体的に計算はしないがな。どうせ長門が裏で細工でもしていたんだろう。フッ」 俺は思わず苦笑した。あいつらがそんな気を回していたなんてな。そして、俺はそういう後押しを受けなければ何もできないのか、って思ったわけさ。ハルヒが俺をどう思っていようが関係ない。俺はハルヒが好きだ。こんなことはもうずっと前から自覚していたことであり、俺なりにアタックしようと思ったことがないわけではないが、ま、最後の踏ん切りがつかなかったのさ。 しかし、あいつらが裏で動いているとなれば話は別だ。つまり俺はそんな後押しがなくても行動できるぜ、っていうところを示したいと思ってしまったわけだ。そこ、もう後押しを受けてしまったわけだから今更何言っても無駄だとか言うなよ。これは気持ちの問題だろ。いくら後押しを受けたところで、本人が動かなければ何も起こらないのであって、結局最後のところは俺の気持ちだってわけだ。 学校ではあんなことを考えてしまったが、俺の気持ちは変わらねぇぜ。よし、こうなったら不思議探索で次にハルヒと2人っきりになった時にやってやろうじゃねぇか。 〜再び学校〜 「おいハルヒ、屋上に行かないか」 休日の北高。文芸部室。まさかあんなことを考えたその週末にハルヒと2人になるなんて、ちょっと急すぎやしないか?いつもならハルヒのトンデモ能力を疑うところだが、今回ばかりはあいつら3人が示し合わせたとしか思えねぇ。朝比奈さんがどれだけ有効に加担しているかは分からないけどな。 「屋上?なんでよ。そもそも鍵はあるんでしょうね?」 「さっき一緒に拝借しておいた。」 「何よ、それなら何もこんなところで時間を浪費することもなかったんじゃないの。」 「だからそれは俺の心の準備時間だ。」 もうここまで来たら分かるぜ、ハルヒは休日の北高に不思議なんて求めてねぇ。屋上に行ったところで何もないことはよく分かってるはずだからな。だが、こいつの口元がニヤついているところを見れば、さてはこいつ、俺が今からすることを分かってるんじゃないかとさえ思えてくるね。 「屋上に先回りしたのはいいですけど、涼宮さんたちなかなか来ないですねぇ。まさか別の所に行ったんでしょうか…?」 「ふむ、休日の高校で絶好の告白スポットと言えば校舎の屋上、誰もいない教室、体育館裏あたりが相場ですから、その1つに目星をつけてみたのですが、外れましたかね?」 「そもそも、休日の職員室が開いているとは限らないから、屋上にも教室にも入れないと考えるべきじゃなかったんですか?」 「う……」 いつもはちょっと抜けているところのある未来人さんがこれ以上なく的確な意見を言って下さる。なので僕も言い返せなくなったわけですが、隣にいる長門さんが助け舟を出してくれました。今度はあなたが救世主です。今度象牙の本棚を奉納したいところですね。 「心配ない。涼宮ハルヒと彼は今ここに向かっている。私たちも早く隠れるべき。」 さては長門さん、わざと職員室の鍵を開けておきましたね?まぁいいです。それでは、見つかってもいいのですが彼の気持ちが削がれるでしょうから、急いで隠れるとしましょうか。あ、そうそう。我々の正体を知らない方が1名ほどいらっしゃるので、ここで長門さんに不可視遮音フィールドを展開してもらうことはできません。 「風が気持ちいいわね!」 「そうだな。」 「で?キョン、私をこんなところに連れてきてどうするつもり?やらしいことを考えてるんなら死刑だからね!」 「んなわけあるかよ。」 ハルヒは疑いの目と面白いものを思いついた時の目を合わせたような、よくわからん目でこちらを見ている。誰がお前にやらしいことなんざするかよ。いや、まぁそういうことをしたくないわけではない...って何言ってんだ俺は。 「ハルヒよ、SOS団は楽しいか?」 「は?そんなの当然じゃない!何よ、あんたは楽しくないっていうの?」 「いーや、俺も楽しいよ。作った当初はこんなことになるなんて思わなかったがな。」 「あんたのお陰よ。」 「ん、何か言ったか?」 ハルヒの顔が少しだけ赤い。 「何も。ただ、よく考えたらSOS団を作るきっかけをくれたのはあんただったと思い出しただけよ。」 「そうか?俺はただお前にすぐそこの階段で脅迫じみたことをされただけだがな。」 「どこが脅迫よ!れっきとした依頼じゃないの!まったくこれだからキョンは…」 「へいへい。そういうことにしておくよ。だがな、俺はSOS団にいることが嬉しいってことだけは確かだぜ。」 「キョンにしては意外なことを言うじゃないの。」 「考えてもみろ、朝比奈さんは北高一の美少女だし、長門も谷口に言わせりゃAマイナーの美少女らしい。ランクはよく分からんが、美少女ってところは俺も同意見だ。散々世話になってるしな。古泉はあのニヤケ面が胡散臭いがいい奴だ。そんな奴らと一緒にいられる俺は幸せ者だ。これもハルヒがSOS団を作ってくれたから実現したことだ。」 「…何よそれ」 う、やはり不機嫌だ。そりゃそうだ。だがその不機嫌オーラももう少しで消え去るさ。 「何だ。俺はお前に感謝してるんじゃないか。」 「何と言うか、彼もとことん素直じゃありませんね。これでは…」 「時間をかけすぎ。涼宮ハルヒも我慢の限界。」 「キョン君、何やってるんですか…」 「私もそう思いますよ。部外者の私でも怒ります。」 「まぁ、彼のことです。当然ながら何か考えがあるんでしょう。もしなかったら、その時は4人で彼を闇討ちしますよ。」 「………。」 「え、私もですか?」 「あなたもです。我々にご協力してくださる約束ですからね。最後まで付き合ってもらいますよ。」 えぇぇ〜……あ、みなさんこんにちは。今まで忘れ去られていたかもしれませんが喫茶店のバイトです。古泉君に見つかってよくわからないまま協力を約束させられた私は、いつの間にか北高の屋上で涼宮さんとキョン君を影から見ているわけですが、まさかこんなところで出番が来るとは思いませんでした。 さてさて、何やら当初の目的に復帰することは不可能なところまで来ていますが、もとは私が気まぐれを起こしたところから始まったこのSS、最後まで見届けましょう。でもキョン君、ちゃんと軌道修正してくれないと怒りますよ。さぁ、この先部外者のお邪魔虫は出てこないので、ご安心くださいね。 「だから!その言い方だと有希とみくるちゃんと古泉君がいればそれでいいように聞こえるじゃないの!私、私の、立場は………うぐっ、ひっく…」 ハルヒが大粒の涙を流して泣いているなんて想定外だ。いや、違うな。いい加減正直になれよ、俺。お前が想定外だろうが予想外だろうが、女子を泣かせたことは否定できねぇ事実だ。ここで逃げたらそれこそ最低の野郎だぜ。泣かせた落とし前は手前でつけろってんだ。しかもそれがお前の惚れた女ってんなら尚更だ。そうでなければ、お前はSOS団いや学校から強制退学させられても文句は言えないぜ。さぁ、言うべきことをさっさと言ってそいつの顔に100Wの笑顔を取り戻させてみろよ。 「ハルヒ……!」 俺はハルヒを力いっぱい抱きしめながら叫んだ。裏で動いていたらしいあいつらのことだからどこかで隠れて見ているんじゃないかなんてことは俺でも簡単に予想できるぜ。だが今はそんなことは関係ねぇ。今から言うのは俺の心の底から正直な気持ちだ。古泉だろうが長門だろうが朝比奈さんだろうが、その他誰に聞かれても構やしない。むしろ聞きたけりゃ聞け。そして文句がある奴は出て来い。そう思った。だってそうだろ? 「このバカ野郎!俺がいつお前がいなくていいと言った!いいか、一回しか言わないから最後まで聞け。」 いいか、俺。しっかりしろよ。 「俺は、確かに朝比奈さん、長門、古泉に感謝している。そして、このメンバーを揃えてくれたお前にもだ。」 おいおい、それだけじゃないだろ。肝心なところがまだだ。 「俺は、この学校で一番の親友と言って真っ先に出てくるのがSOS団のメンバーだ。」 違う。今言うべきはこれじゃない。 「部活に部長がいないと話にならないのと同じように、SOS団にも団長が不可欠なんだよ。団長がいるからこそ、俺はこんなに楽しい学生生活ができるんだ。」 これでもない。むしろ遠のいてるぞ。 「だから俺は、SOS団団長であるお前に一番感謝している。いや、」 おいおい、いい加減にしないとそろそろ読者も呆れる頃だぜ。いや、もう呆れてるかもな。よく考えろ。いや、考えるまでもないことだろ、俺。ハルヒがハルヒたる所以にSOS団団長なんて肩書きが必要か?お前にとってのハルヒってのはそういう位置づけなのか?前回こいつと閉鎖空間に行ったとき、お前は何を考えた?何を考えてハルヒにキスをしたんだって聞いてんだよこの野郎! 「俺はお前のことが大好きなんだよ!!」 自分でも知らぬ間に、俺はハルヒに口づけをしていた。 |
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